研究実績の概要 |
本研究では,新貿易理論における非物理的距離の概念について,その理論的な意味づけを再検討し拡張する.従来の新貿易理論を用いた研究では,広義での輸送費用を引き下げる,あるいは引き上げる,国境やFTA,共通言語などの要因が,非物理的な「距離」,すなわち非物理的距離要因として用いられてきた.特に農産物貿易においては,農産物の財の特徴として,財の質の低下速度が速く,重量あたり単価が低いために相対的に輸送費用が高い,等の理由から,他産業と比較して,最も距離のもつ意味が重要である. 本研究では,非物理的距離要因に着目し,非物理的距離要因について理論的に検討する.具体的には,非物理的距離要因が,物理距離換算でどの程度離れた場合と同じくらいの影響をもつのかを検証するために,非物理的距離要因を物理距離に換算して定式化するフレームワークを構築し,非物理的距離要因のうち,何が最も貿易の阻害要因となるかを明らかにする. 特に2020年度は,物理距離のみを距離要因として用いた分析のベースラインとなるモデルを構築することを試みた.これは,新貿易理論に忠実な形で再現されるもので,価格効果への対処,ゼロ貿易への対処を考慮して,固定効果法と二段階推定法を併用した形を検討した.これにより,物理的な二国間の距離,すなわち動かしようのない外部要因のみを考え,それ以外の貿易の阻害要因がまったくない状態を仮定した,理論的な(純粋な)物理距離の効果を検証す る.ここでの物理距離には,これまで多くの(ほとんどすべての)実証分析で用いられてきた,首都間距離を採用した.
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今後の研究の推進方策 |
まず昨年度実施した分析結果から,理論モデルと整合的でなかった要因について検討する.要因が特定できたのち,物理距離を用いたベースラインモデルの再検討を行う. その後,当初の予定通り,物理距離のみを距離要因とした分析をベースラインとし,非物理的距離要因を距離要因の一部として導入した場合,ベースラインとどの程度の差異が生じ得るかを検証する.この比較により,あるひとつの非物理的距離要因,例えばFTAの締結が,二国間貿易に対してどの程度の影響を及ぼし得るのかを,要因ごとに検証する.
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