研究課題/領域番号 |
20K15626
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研究機関 | 香川高等専門学校 |
研究代表者 |
長谷川 雄基 香川高等専門学校, 建設環境工学科, 助教 (70797092)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | けい酸塩系表面含浸材 / けい酸塩系表面含浸工法 / 高炉セメント / 表層引張試験 / 超音波試験 / サンドブラスト法 / 耐摩耗性 / 改質効果 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,普通ポルトランドセメント以外のセメントを使用したコンクリートや補修材料に対するけい酸塩系表面含浸材の改質効果の検証を通して,同材料の汎用的な適用可能性を示すことである。本年度は,水和反応速度の速い早強ポルトランドセメントおよび混和材を使用した高炉セメントを対象とし,基礎検討を行った。 まず,反応性確認試験(JSCE-K 572-2012)を通して含浸材との反応の有無や反応速度を検証した。結果として,普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,高炉セメントのそれぞれにおける反応特性を確認できた。 続いて,含浸材塗布による改質効果を評価するための検討を行った。実施した試験は,既往研究で改質効果の評価方法として適用例が多い表層透気試験に加え,表層引張強度試験,超音波試験とした。それぞれの試験を用いた場合の改質効果の評価方法について検討した。結果として,表層引張強度試験では,試験時の治具周縁の縁切り深さを改質深さより浅くすることで,改質効果を評価できることが確認された。また,超音波試験においては,試験時の受信子と発信子の端子間距離が近い場合に,改質効果を適切に評価できる可能性が示された。 上記に加えて,農業用水路で普遍的に生じる摩耗に対する抵抗性を評価するために,促進摩耗試験について検討した。既往研究で提案されているサンドブラスト法に着目し,試験機の機構が単純で,安価で入手が容易なサンドブラスト機を用いた促進試験について検討した。結果として,的確に耐摩耗性を評価可能な試験時間,噴射距離,評価指標を明らかにした。 以上の成果は,いずれも基礎データに該当するものであるが,新規性の高いものであり,学会発表や論文にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,普通ポルトランドセメント以外のセメントを使用したコンクリートや補修材料に対するけい酸塩系表面含浸材の改質効果を検証することであり,研究着手時点では,初年度から様々な材料を用いて含浸材の改質効果を評価することを予定していたが,想定していたよりも改質効果の評価において明確な傾向を確認できない実験ケースが多かった。 この理由として,改質効果の評価方法が挙げられる。本研究の遂行には,けい酸塩系表面含浸材の改質効果を評価するための試験が必須である。一方,現状ではJIS規格や各種学会基準などで明確な試験方法は規定されておらず,基礎データを蓄積している段階である。本研究では,比較的実用例の多い表層透気試験に加えて,表層引張強度試験と超音波試験を実施した。これらの試験においては,適切に改質効果を評価するための基礎データの取得が必要であり,当初想定していたよりも試験方法自体の検討に時間を要した。しかしながら,検討過程で生じた課題を解決していくことで,新たな知見も多数得られ,学会発表や論文で公表できた。また,今年度に基礎データの取得が完了し,様々な課題を解決できたことから,次年度は当初の研究計画を上回るスピードで研究を進展させることができると想定している。 水路用材料に必須となる耐摩耗性の評価においては,既往研究で提案されている方法を踏まえ,新たな試験機および評価方法を検討した。対象とした試験機は機構が単純で入手しやすく,メンテナンスも容易なものである。今年度得られた成果は実用上有益なものであるとともに,試験方法が整備できたことから,次年度は,含浸材を塗布した様々な材料における耐摩耗性の評価を進める予定である。 以上の理由から,今年度の進捗状況として,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討結果から,含浸材の改質効果を評価するための方法を整理することができた。これを踏まえ,今後は,対象とするセメント種類を増やし,早強ポルトランドセメントと高炉セメントのほかに,中庸熱ポルトランドセメントおよびフライアッシュセメントも対象とする。加えて,添加ポリマーの種類や繊維混入の有無を調整したポリマーセメントモルタルを使用して実験を進める。具体的には,実験水準として,ポリマー種類3水準(アクリル系,SBR系,酢酸ビニル系),ポリマーセメント比3水準(P/C:0,5,10%),繊維種類2水準(アラミド系,ビニロン系),繊維の体積混入率3水準(0,0.5,1.0%)を設定する。また,けい酸塩系表面含浸材は,主成分がナトリウム単独,リチウム単独,両者の複合,の3種類があるが,初年度はナトリウム単独のもののみを対象とした。今後は,リチウム単独および両者の複合の2種類についても実施し,各種材料に対するけい酸塩系表面含浸材の改質効果を普遍的に整理していく予定である。 試験方法としては,反応性を確認するための反応性確認試験および改質効果を評価するための各種試験を継続して実施する。特に表層引張強度試験と超音波試験については,含浸材の改質効果のみならず,改質深さについても推定できる可能性を秘めており,この点についても,得られたデータから考察する。 農業用水路に普遍的に生じる摩耗と中性化を対象とした検討を開始し,耐摩耗性については,初年度に得られた結果を活用して,サンドブラスト法による評価を行う。中性化については,JIS規格の促進中性化試験を実施し,中性化抵抗性を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,感染症対策により各種出張の大部分が中止となった。これにより当初予定と比較して繰り越し額が生じた。次年度も感染症の蔓延状況は不透明であるため,申請時に計画していた出張旅費は執行できない見込みが強い。これを踏まえ,次年度は室内実験を当初想定よりも増やす予定であり,実験に係る消耗品や材料購入,その他データ整備機器などを整備する予定である。
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