キュウリ葉の純光合成速度が光合成有効光量子束密度(PPFD)およびCO2濃度に影響を受ける機構の数理モデルを複数構築し、実測値を代入して評価した。それらは電子伝達系およびカルビン回路、さらにモデルによってはサイクリック電子伝達や光呼吸に影響を受けながら純光合成速度が決定するとするもので、それらの反応の最大反応速度をパラメータとして持つ。実測データと比較した結果、PPFDおよびCO2濃度が個葉の純光合成速度に及ぼす影響を推定しようとする際に、サイクリック電子伝達を無視できない可能性が示された。本モデルに実測値を代入した際に得られるそれぞれの最大反応速度の値は、植物が限られたリソースでいかに光合成量を大きくして成長速度を高めるために適応してきたかの生態学的研究に貢献する可能性がある。 また、いずれのモデルを採用した場合でも高CO2濃度で栽培したキュウリ葉は、電子伝達系の最大反応速度と比較してカルビン回路の最大反応速度が小さい傾向があった。農業分野において、環境を変化させた際の植物個葉または群落の純光合成速度をモデルにより推定しようとする場合に、植物の光合成特性パラメータを固定して推定するのではなく、光合成特性パラメータが植物の順化により変化することを考慮すべきことを示している。 さらに、構築したモデルを用いて光合成特性の推定手法を開発することで温室等での効率的な環境制御を可能とすることを目指したが、微弱な蛍光を測定する際のノイズが推定結果に大きく影響するため実用的な技術の開発には至らなかった。測定手法の改善またはノイズの影響を受けにくい推定用モデル選定による光合成特性の推定精度の向上は今後の課題である。
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