本研究では、林間放牧による生態系サービスの定量的評価および生態系サービスのシナジートレードオフの関係を明らかにすることを目的とする。 2023年度は、放牧地および採草地の牧草の成分分析を行い、2022年度の結果と比較した。対象圃場は、有機畜産JASの認証を受けているため、農薬および化学肥料は使用されていない。放牧地では、牛が採食しない雑草の掃除刈りや、数年に一度牧草の種子散布が行われ、草地更新などの積極的な管理は行われていない。放牧地および採草地ともに、複数種の野草や雑草が侵入しているが、牛が採食している植生の分析を行うために牧草だけでなく雑草や野草も含めて刈取を行なった。なお、十勝農業協同組合連合会に飼料分析を依頼した。 十勝農業協同組合連合会が公開している飼料の成分目標と比較すると、粗たんぱく質(CP)は7.9~25.3%を示し、放牧地および刈り取り時期によって差が見られたが、ほとんどの放牧地では目標値の10%を満たした。可消化養分総量(TDN)は、59.1~69.5%を示し、放牧地間や時期による変動は小さく、目標値の60%を概ね満たした。日本飼養標準肉用牛(2008年版)に記載されている一般的な放牧草の飼料成分と比較すると、国内の山地傾斜地で利用されているシバよりも、対象放牧地の牧草・雑草は、CPおよびTDNともに乾物中の含有量が大きい。また、増体に必要な正味エネルギー(NEg)は、0.74~1.12Mcal/kgとなり、採草地と放牧地では差が見られないが、雑草が多く含まれる放牧区のみNEgが低い傾向が見られた。以上のことから、本研究対象地で実施されている有機的かつ粗放的な放牧地管理は、牧草の成分を適切な状態に維持しており、経年的な変化が比較的小さいことが分かった。ただし、雑草の侵入度が強い放牧区ではCPやTDN、NEgが低下する傾向が確認された。
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