農薬施用は、標的となる病害虫や雑草の制御が目的であるが、多くの種が存在する実環境下では時として、標的以外の生物の減少や別の病害虫の増加といった思いもよらない結果をもたらす。本研究では「農薬が群集に与える影響の予測困難性は、生物間の相互作用の可変性がもたらしている」という仮説に基づき、農薬が生物多様性に与える影響の予測精度を、相互作用強度の変化を考慮することによって高めることを目的とした。令和4年度までに、既存の水田メソコズム実験の時系列データを用いて、本研究の核心となる「農薬が群集に与える影響の予測困難性は、生物間の相互作用の可変性(変動性)がもたらしている」という仮説を指示する結果を得た。令和5年度は解析方法を改良し、以下のようにより踏み込んだ解析を行った;(1)推定する相互作用効果を個体群あたりではなく個体あたりに変えた、(2)個体あたり相互作用効果の密度依存性(interaction density-dependence (IDD); 相互作用の受け手生物の個体群密度と個体あたり相互作用効果との関係性)の強さを相互作用する生物ペアごとに評価した、(3)農薬に対する個体群密度の感受性にIDDの強さが与える影響を検証した。その結果、負のIDDが強いほど、相互作用の受け手個体群は農薬の影響を受けにくく、逆に正のIDDが強いときには個体群は農薬の影響を受けやすくなる傾向が示された。さらに、受け手個体群密度と独立な相互作用の変動が大きいほど、受け手個体群は農薬の影響を受けやすくなった。これらの結果は、相互作用の密度依存的および非依存的な変動性を考慮することで、農薬の群集影響の予測可能性を高められる可能性を示唆している。この成果は令和6年4月時点でプレプリントとして公開済みであり、国際誌で査読中である。
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