研究課題/領域番号 |
20K15646
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真方 文絵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50635208)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | リポポリサッカライド / 初期胞状卵胞 / 発育途上卵母細胞 / 体外発育培養 / 顆粒層細胞 / 核成熟能 / エストラジオール |
研究実績の概要 |
炎症性子宮疾患の罹患牛では,臨床的に子宮の炎症が治癒しても長期にわたり受胎性が低下する。子宮に感染した細菌が放出する毒素であるリポポリサッカライド (LPS) は,ウシ卵巣内の卵胞に移行し,成熟した卵胞の機能を著しく低下させることが示唆されている。本研究では発育初期の未熟な卵胞および内包される卵母細胞の分子学的性状と機能におよぼすLPSの作用を明らかにすることで,「子宮が治癒しても受胎しない」病態を解明することを目的とした。 2020年度は発育初期の未熟な卵胞に内包される発育途上卵母細胞の発生能におよぼすLPSの作用を明らかにするため,直径0.4-0.7 mmのウシ初期胞状卵胞から卵母細胞-顆粒層細胞複合体 (oocyte-granulosa complexes: OGCs) を単離し,LPS添加培地にて12日間の体外発育培養を行なった。その結果,LPSによってOGCsの生存率が減少したとともに,正常な発育を反映する指標として用いられる顆粒層細胞の腔形成率が低下した。さらに,LPSは顆粒層細胞によるエストラジオール産生量を減少させたことから,LPSが初期胞状卵胞に内包される発育途上卵母細胞の生存性および顆粒層細胞の機能を低下させる可能性が明らかになった。体外発育培養後に生存していたOGCsをLPS非添加培地にて体外成熟培養に供したところ,LPS存在下で体外発育した卵母細胞では核の成熟率が低下したことから,形態的に正常であっても核の成熟能が低下していることが明らかとなった。以上の結果から,発育期間におけるLPSへの曝露は発育途上卵母細胞の発生能に不可逆的な影響をおよぼす可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,初期胞状卵胞に内包される発育途上卵母細胞の長期体外発育培養システムを構築し,LPSが発育途上卵母細胞の生存性および顆粒層細胞の機能を低下させることを明らかにした。さらに,発育期間におけるLPSへの曝露は発育途上卵母細胞の機能に不可逆的な影響をおよぼす可能性を示した。現在は,発育途上卵胞のLPS受容能を検証するため,ウシ卵巣組織切片を用いた免疫染色により,様々な発育段階の卵胞におけるLPS受容体の発現と局在の解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
様々な発育段階の卵胞におけるLPS受容体の遺伝子およびタンパク質発現,さらにその局在 (卵胞膜細胞,顆粒層細胞,卵母細胞のどこに発現するか) を検証する。これにより,LPSの影響を受けやすい卵胞の発育段階を明らかにする。また,発育初期にLPS曝露を受けた卵胞の長期的な発育動態を明らかにするため,炎症性子宮疾患の病態を模倣した,乳牛への子宮内LPS投与を行う。超音波画像診断により卵胞発育動態を経時的に解析するとともに,発育した成熟卵胞の卵胞液を吸引してステロイドホルモン産生能を検証する。さらに同時にとれる顆粒層細胞におけるステロイドホルモン産生関連遺伝子および炎症関連遺伝子の発現解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて2020年4-5月は研究機関が閉鎖となり,一切の研究活動を行うことができなかった。これにより当初の計画通りに実施できなかった研究が生じたために次年度使用額が発生した。次年度使用額は,2020年度に実施できなかった解析(卵胞におけるLPS受容体発現解析)に使用する予定である。
|