ウシ子宮内膜炎において,感染細菌が放出する毒素であるリポポリサッカライド (LPS) は卵胞の機能を低下させ,長期にわたる低受胎を引き起こす可能性が示唆されている。本研究では発育初期の未熟な卵胞と卵母細胞におよぼすLPSの作用を明らかにすることで,「子宮が治癒しても受胎しない」病態を解明することを目的とした。2021年度は,発育初期の卵母細胞と卵胞発育におよぼすLPSの作用について以下の成果を得た。
1) 6日間の子宮内LPS反復投与によって子宮内膜炎モデル牛を作出し,卵胞発育におよぼすLPSの長期的な作用を検証した。子宮内へのLPS投与によって,主席卵胞液中のLPS濃度が増加し,エストラジオール濃度が減少した。LPS反復投与終了後に発育した主席卵胞において,卵胞液中のLPS濃度は変化しなかったが,エストラジオール濃度が低下した。 2) ウシ初期胞状卵胞内の卵母細胞および顆粒層細胞において,LPS受容体であるTLR4の遺伝子およびタンパク発現を確認した。単離した卵母細胞-顆粒層細胞複合体を体外発育培養 (LPS添加) および体外成熟培養 (LPS非添加) に供したところ,発育期にLPS曝露を受けた卵母細胞では体外成熟後のミトコンドリア膜電位差が低下した。
子宮内のLPSは卵胞に移行してその機能を低下させるとともに,LPS消失後も卵胞への作用が持続する可能性が示された。また,発育初期の微小な卵胞はLPSを受容する機構をもち,発育途上期のLPS曝露は卵母細胞に不可逆的な影響をおよぼす可能性が示唆された。以上より,ウシ子宮内膜炎においてはLPSが卵胞に移行し,長期にわたるエストラジオール産生抑制と不可逆的な卵母細胞の胚発生能低下を引き起こすことで,長期不受胎の一因となる可能性が明らかになった。本成果がウシの受胎率向上のための新たな治療法の開発に貢献することが期待される。
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