研究課題/領域番号 |
20K15648
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松崎 芽衣 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 助教 (70848085)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精子 / 精子貯蔵管 / ウズラ |
研究実績の概要 |
本研究では、最後に交尾した雄の精子が受精に有利となるlast male sperm precedence (LMSP)の分子メカニズムを、ウズラを用いた研究により明らかにすることを目的としている。当初の予定では、ゲノム編集を利用して精子特異的タンパクの遺伝子へ蛍光タンパク遺伝子を挿入することにより蛍光タンパクを精子で発現させ、得られた蛍光タンパク発現精子を用いて精子を個体ごとに識別する予定であったが、現時点で蛍光タンパクをノックインしたウズラ個体は得られていない。このため、代替として精子の蛍光染色により精子貯蔵管に貯蔵されている精子の父性を識別する実験系、および顕性黒色羽装を有するDominant Black(DB)系統のウズラを用いた羽装による父性鑑別の実験系を用いることによって2個体に由来する精子の精子貯蔵比率および雛の父性の調査を行った。 まず初めに、野生型とDB系統各1個体から採取した精子を同濃度で混合し人工授精して雛の父性を調査した。生まれてくる雛の父性は1:1になると思われたが、予想に反して雛の父性はDBへの偏りがみられた(野生型由来33.6 %、DB由来66.4%)。野生型の精子とDBの精子を異なる蛍光色素で染色して精子貯蔵比率を調べると、DBの精子は野生型精子よりも貯蔵比率が高かった。DB精子と野生型精子の形態を比較したところ、DB精子は野生型と比較して中片部が長いことが明らかになった。また、DB精子は低粘性の溶液中では野生型精子よりも運動速度が遅いが、溶液の粘性を高めても運動速度が低下しづらいことが判明し、中片部が長い精子は輸卵管内のような高粘性条件下において、より精子貯蔵管へ侵入しやすいことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではLMSPの効果を見るために2個体の精子を混合して人工授精した場合と間隔を空けて個別に人工授精した場合の雛の父性等を調査する予定であったが、混合精子を人工授精した場合にも父性の偏りがみられたことから、LMSP以外にも精子の中片部長が父性に影響を及ぼすことが示唆された。これは当初予期していなかった結果ではあるが、長い精子を作る雄ほど生殖に有利になるという現象を精子の運動性との関連から考察し、一定の成果を得た。当初予定していた蛍光タンパク遺伝子のノックインによる精子の蛍光標識が難航しているものの、この方法の代替として遺伝子多型を利用した父性鑑別法を確立しており、概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はウズラの系統による差を除外するため、野生型雄2個体の組み合わせで調査を行う予定である。本研究において、ゲノム編集を試みる過程で野生型ウズラのチロシナーゼ遺伝子に2種類の遺伝子多型(G-G型とA-A型)がみられる領域を特定している。また、これらの遺伝子多型をホモで有する個体とヘテロで有する個体を簡便に識別する方法も確立しており、これらの遺伝子多型を利用すれば野生型雄同士の組み合わせでも父性鑑別を行えるため、異なる系統を用いた実験系よりも雄の遺伝的背景の影響を小さくしてLMSPの効果を観察することができると予想される。
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