研究実績の概要 |
本研究では、最後に交尾した雄の精子が受精に有利となるlast male sperm precedence (LMSP)の分子メカニズムを、ウズラを用いた研究により明らかにすることを目的としている。当初の予定では、ゲノム編集を利用して精子特異的タンパクの遺伝子へ蛍光タンパク遺伝子を挿入することにより精子を蛍光標識し、得られた蛍光標識精子を用いて精子を個体ごとに識別する予定であったが、ウズラでのゲノム編集が難航しているため、蛍光色素による標識でこれを代替することとした。 一方、本研究課題を遂行する過程で中片部長が長いウズラ精子が受精に有利になることを明らかにしたため、2022年度はウズラ精子中片部長を決定する量的形質遺伝子座(QTL)を同定するための実験を実施した。短い中片部長をもつウズラ系統と長い中片部長をもつウズラ系統を交配してF2集団を作出し、F2集団のうち短中片部精子を産生する個体および長中片部精子を産生する個体のゲノム DNAについて、whole-genome sequence(WGS)により塩基配列のリードデータを取得した。リードデータを用いたQTL-Seq解析によりウズラ精子中片部長に関わるQTL領域を同定し、これらのQTL上に位置する遺伝子のうちアミノ酸翻訳領域に多型が存在する候補遺伝子を102個決定した。候補遺伝子のうち6遺伝子(RNF17, IFT81, PDE8B, TBCA, JMY, PAIP1)は、マウス等において精子形成への関与が既に報告されている遺伝子であった。精子中片部の長さは構造的な観点から精子の運動特性に関与する可能性があり、運動性の高い精子を産生する雄ではより明確なLMSPが観察されるという先行研究から、今後は精子中片部長と運動性およびLMSPとの関連を調査する予定である。
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