本研究では、最後に交尾した雄の精子が受精に有利となるlast male sperm precedence (LMSP)の分子メカニズムを、ウズラを用いた研究により明らかにすることを目的としている。当初の予定では、ゲノム編集を利用して精子特異的タンパクの遺伝子へ蛍光タンパク遺伝子を挿入することにより精子を蛍光標識し、得られた蛍光標識精子を用いて精子を個体ごとに識別する予定であったが、研究期間中にノックイン個体の作出には至らなかった。 加えて2023年度は、LMSPメカニズムを統一的に解析するための評価系構築および解析を行なった。ウズラのZ染色体上に設計した3座位のマイクロサテライトマーカー増幅用プライマーを異なる蛍光波長を有する蛍光色素でそれぞれ標識し、これらの蛍光標識プライマーを用いたマルチプレックスPCRによって個体識別・父性鑑別が可能であった。また、人工授精後に卵黄膜内層へ形成された精子の結合痕をカウントすることによりウズラの貯蔵精子の消費速度を推定した。人工授精時に精子を異なる色素で蛍光標識することによって卵黄膜上にトラップされた精子を識別することも可能であり、以前に報告した精子貯蔵管内の貯蔵精子を蛍光色素によって識別する試験系との組み合わせにより、LMSPをより多面的に評価することができると期待される。研究期間中にLMSPの分子メカニズム同定には至らなかったが、LMSPが交尾後から受精に至るまでのどの段階で、どの様に生じるかを明らかにするための実験基盤を整備した。
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