現行の牛の育種改良手法である後代検定は5年以上の長期間を要し、多くの後代と膨大な費用を必要とする。後代の更に次世代である受精卵(胚)段階でゲノミック評価を実現すれば、より少ない頭数の繁殖牛から選抜された高能力の後代を生産でき、低コストかつ育種改良の超高速化が可能となる。本研究では、牛育種改良の超高速化を目指し、胚段階でのゲノミック評価を実現するために体外受精胚の一塩基多型(SNP)解析法を確立する。食肉処理場由来卵巣および経腟で生体牛の卵巣からそれぞれ採取した卵子から生産した初期胚において、移植用の胚の生存性を低減せず、SNP解析を可能とする割球分離時期および採取細胞数を明らかにした。今回明らかとなった割球分離時期における極少数の細胞数のDNAを増殖することにより、胚盤胞期以降まで細胞増殖する過程を経ずともSNP解析が可能となるDNA品質が得られることが示唆された。極少数細胞のDNAを増幅してSNP型判定を実施したところ、牛由来の脂肪酸合成酵素、脂肪酸不飽和化酵素、枝肉重量QTLの判定に成功した。一方で、DNA濃度幅が大きく、今後もDNA品質の特定、濃度の安定性等の解明が必要であると考えられた。若齢時期の子牛から生産する体外受精胚のSNP解析を可能とするためには子牛用の安定的な卵子採取ツールの開発が望まれる。これまで製品がなかった子牛の体格に合わせた経腟採卵用小型OPUプローブを開発した。前年度の実績において、子牛は成牛に比べ、経腟採卵時の卵胞数は同等だが、採取卵子数は半数以下だったことから、子牛に対する新たな卵胞発育処理を開発した。これにより採取卵子数は処理前と変化が認められなかったが、高品質卵子の割合および胚盤胞生産数の向上が認められた。本研究の進展により、今後、次世代(胚)を利用したSNP解析の精度を向上してゲノミック評価を実現することにより、育種改良の超高速化が期待される。
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