研究実績の概要 |
豚レンサ球菌はヒトやブタに髄膜炎や心内膜炎を起こす人獣共通感染症の起因菌であるが、その発症機序については不明な点が多い。本研究では初めに豚レンサ球菌の中でも強毒な系統として知られるST1. ST7, ST28等の株と、その他の系統に分類される株の比較ゲノム解析を行い、豚レンサ球菌の病原性に関与する因子を探索した。その結果、強毒な系統の株は宿主のグリコサミノグリカンを分解するヒアルロニダーゼとヘパリナーゼ、分解産物を菌体内に取り込むPhosphotransferase system、分解産物を代謝するEntner Doudoroff経路の酵素をコードする遺伝子群を保有することが明らかとなった。次に、豚レンサ球菌の近縁種であるStreptococcus parasuisとStreptococcus ruminantiumの完全長ゲノム配列を決定し、豚レンサ球菌とS. parasuis, S. ruminantiumの比較ゲノム解析を実施した。S. parasuisとS. ruiminatiumは豚レンサ球菌と近縁であるものの、宿主域や毒力が異なることが知られている。特にS. parasuisは毒力が低い株が多い。豚レンサ球菌の強毒株が保有していた、宿主のグリコサミノグリカンを分解し菌体内で代謝するための遺伝子群はS. ruminantiumも保存していたが、S. parasuisは保有していなかった。さらに、他の37種のレンサ球菌の代表株について、上記遺伝子群の保有状況を調べた結果、ヒトの病原体である肺炎球菌やG群溶血性レンサ球菌等も、この遺伝子群を保有することがわかった。これらの結果から、本遺伝子群は豚レンサ球菌の病原性に関与するだけでなく、S. ruminantiumや肺炎球菌等の病原性にも関与する可能性が示唆された。
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