研究課題/領域番号 |
20K15659
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 貴恵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (50806362)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | センチネルリンパ節 / 磁気プローブ / 磁性流体 / 超音波エラストグラフィ / リンパ節マッピング |
研究実績の概要 |
センチネルリンパ節(SLN)の同定と評価は腫瘍の病期判定に重要であるが、解剖学的な領域リンパ節とは必ずしも一致せず、特にリンパ経路が複雑な頭頸部腫瘍などでは正確なSLN同定法の確立が課題である。本研究では、低侵襲かつ従来の同定法が抱える問題点を克服する磁性流体と磁気プローブを用いたSLN同定法と、同定されたリンパ節に対する超音波エラストグラフィによる質的診断を組み合わせた「非観血的センチネルリンパ節転移診断法」の確立を目指す。 2020年度には、磁性流体を用いた新規SLN同定法の確立の基礎的検討として健常犬を用いた磁気プローブ法の有用性評価と頭頚部のリンパ節マッピングを行った。磁性流体Ferahemeは体表からの磁気プローブを用いた磁束密度計測においてこれまでに臨床的有用性が示されているResovistと同等の検出感度を示した。また、FerahemeとMRIを用いたリンパ節マッピングにより頭頸部のリンパ経路の多様性が示唆されるとともに、CT Lymphographyと比較して検出感度の向上が認められた。2021年度には、超音波エラストグラフィの基礎データの集積を行った。より客観的で再現性の高い質的評価を行う方法としてShear wave elastographyを採用し、健常犬の正常リンパ節の硬度計測を実施した。2022年度には犬の頭頚部腫瘍症例において、Ferahemeを利用した磁気プローブ法およびリンパ節マッピング、超音波エラストグラフィの組み合わせによるSLN同定法の検討を開始し、臨床症例に用いるプロトコールの策定を行なった。2023年度には引き続き症例の集積を行い、臨床診断における有用性の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
磁気プローブを用いた新規SLN同定法の確立に向けて、これまでに健常犬において磁性流体ResovistおよびFerahemeを用いたトレーサーとしての比較検討およびFeraheme-MRIによるリンパ節マッピングとCT Lymphographyの比較を行い、頭頚部のリンパ経路の検出におけるFeraheme-MRIの有用性を示した。これらの結果は第164回日本獣医学会学術集会で報告した。また、超音波エラストグラフィに関しては、Shear wave elastographyに着目して健常ビーグル犬を用いて頭頚部リンパ節の硬度計測を実施し、犬の正常リンパに関する硬度計測の過去の報告に一致した傾向を示すデータが得られた。 これらの基礎データに基づき、犬の頭頸部腫瘍症例における磁気プローブ法およびリンパ節マッピング、超音波エラストグラフィの組み合わせによるSLN同定法の策定とその有用性の検討を開始したが、新型コロナウィルス感染症対策に関連した診療制限の影響により、2022年度は有用性の検討に十分な症例を集積することが困難であった。組み入れ基準に合致、かつインフォームドコンセントの飼い主の同意が得られる症例数は限られるため、一症例から得られる情報の量と精度を上げることが課題となった。特に、超音波エラストグラフィで得られた硬度の計測値と摘出した組織の硬度との定量的な比較の追加は必要と考えられた。今年度は引き続き症例の集積を行うとともに、診断精度の高いSLN同定法の確立に向けて検査手法や評価パラメーター、プロトコールの見直しを適宜行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、犬の腫瘍症例における磁気プローブ検出SLN同定法、Feraheme-MRIによるリンパ節マッピング、超音波エラストグラフィの臨床的有用性の検討を行う。頭頚部腫瘍症例のうち外科的切除とリンパ節摘出/郭清を行う症例を対象とし、術前のMRI/CT検査によるリンパ節マッピングを行い、いずれかの方法で同定されたリンパ節を含む体表リンパ節における超音波エラストグラフィによる評価を行う。術中では磁気プローブを用いたSLNの検出を実施し、リンパ節マッピングの結果と照合してリンパ節摘出の過不足を評価し、必要があればさらなる摘出を行う。摘出されたリンパ節は病理診断によって転移の有無と含有磁性流体量を評価する。これらの結果において犬の頭頚部腫瘍において磁気プローブ法とエラストグラフィの組み合わせで非観血的に術前に転移のあるSLNの同定が可能かを検証する。さらに、摘出した組織の硬度の計測を行い、超音波エラストグラフィで得られた硬度の計測値との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は犬の頭頸部腫瘍症例におけるFerahemeを利用した磁気プローブ法およびリンパ節マッピング、超音波エラストグラフィの有用性の検討のため、磁性流体とMRI/CT検査、超音波検査、病理組織学的検査に関連した器材・消耗品の購入を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策に関連して大学内の活動制限が行われたことにより臨床研究の進行に遅れが生じ、次年度使用額が生じた。最終年度は摘出した組織の定量的な硬度の計測を行うための機材を導入し、より精度の高いデータを収集するための研究設備の充実を図る予定である。
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