研究課題/領域番号 |
20K15664
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
今井 啓之 山口大学, 共同獣医学部, 助教(テニュアトラック) (60826155)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 胚発生 / 多倍体 / 倍数体 |
研究実績の概要 |
本研究は、哺乳類特有の繁殖特性の1つである多倍体化胚拒否機構について、本来、子宮内で起こる生命現象をin vitroでの幹細胞実験系を用いて可視化する。このin vitroでの結果を受け、多倍体化胚を致死へ至らしめる原因およびレスキュー法の探索を行う。 従来の研究においても多倍体化胚の発生可能性を論じた報告は散見されるが、これらの報告では、2倍体と4倍体の比較に終始しており、倍数性に伴って変動する発現遺伝子等の生命現象を十分に捉えきれていない可能性があった。また、in vitroモデルとして胚体に相当する胚性幹細胞のみに着目し、胎盤等の胚体外組織への倍数性変動の影響は研究の対象とされなかった。 本研究では、多倍体化が胚を構成する細胞へ与える影響をよりシャープに検出するために複数の倍数性の多倍体胚を作出し、倍数性の系列で比較を行う。また、初期胚に由来する幹細胞系譜である、胚性幹細胞、栄養膜幹細胞、および胚体外内胚葉細胞の全3系譜を用いる。これにより胚盤胞を構成するすべての種類の細胞系譜を反映した幹細胞系譜での特性変化の追跡が可能となる。実験手法としては具体的には、細胞培養により基本的な性状の把握と、分化誘導実験、網羅的解析および動物を用いた実験を予定する。 得られた結果に基づき、in vivoでの多倍体化胚のレスキュー実験へ展開する。これにより既に産業応用がなされている魚類の多倍体化による増産・育種・品種改良技術等を哺乳類家畜への応用が期待できる。具体的には、早期成熟や病原耐性などといった付加形質を有する優良家畜増産へ貢献が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度における進捗として、大きく2点あげられる。 1)まず、多倍体胚の胚体のモデルとしての胚性幹細胞について、2倍体、4倍体に加えて、8倍体胚性幹細胞の樹立に成功した。これらの幹細胞を倍数性の系列を切り口として基本的な性状解析を行なった。ステムネス、分化能・思考性についてRNA-seqを用いた網羅的な解析を実施し、現在データ解析中である。 2)次に、胚体外の発生モデルとして栄養膜幹細胞の樹立を試みた。既報に従い実験を行ったが、十分に再現できなかった。そのため、培養液への添加物の濃度等の条件検討を行なうとともに、免疫染色により胚における幹細胞原基の局在解析を行なった。その結果、多倍体胚からの栄養膜幹細胞様細胞の樹立に成功し、現在基本的な性状解析を行なっている。樹立した細胞株に関して、in vitroでの維持培養が不安定であるため、細胞の継代操作等の改善が必要であると考える。また、並行して、網羅的解析を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度において多倍体胚性幹細胞と多倍体栄養膜幹細胞の樹立に成功した。栄養膜幹細胞について培養方法に関する若干の改善等が必要となる。 2021年度においては、これら幹細胞系譜の解析と、培養方法の改善を探索するとともに、もう1つの幹細胞系譜である胚体外内胚葉細胞についても樹立を行う。樹立後の解析体制は胚性幹細胞、栄養膜幹細胞に倣って行うため、円滑に遂行できると考える。樹立が不能である場合に備えて、免疫染色やin situ hybridization等を用いた幹細胞原基の有無の確認を予定する。これら実験手技については十分に熟知しており、この場合も問題なく遂行できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症に関する措置のため、①参考論文の発表先へ技術指導を受ける機会が作られなかった、②2020年4月に現在の所属へ異動後、動物飼育施設の飼育上限ケージ数が制限されているため、研究計画の変更が必要となった。どちらも対応可能であったため、研究進捗状況に大きな遅れは生じていない。繰越分経費について、旅費等の研究打ち合わせに使用予定である。
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