本研究は、哺乳類特有の繁殖特性の1つである多倍体化胚拒否機構について、本来、子宮内で起こる生命現象をin vitroでの幹細胞実験系を用いて可視化する。 このin vitroでの結果を受け、多倍体化胚を致死へ至らしめる原因およびレスキュー法の探索を行う。 従来の研究においても多倍体化胚の発生可能性を論じた 報告は散見されるが、これらの報告では、2倍体と4倍体の比較に終始しており、倍数性に伴って変動する発現遺伝子等の生命現象を十分に捉えきれていない可能 性があった。また、in vitroモデルとして胚体に相当する胚性幹細胞のみに着目し、胎盤等の胚体外組織への倍数性変動の影響は研究の対象とされなかった。本 研究では、多倍体化が胚を構成する細胞へ与える影響をよりシャープに検出するために複数の倍数性の多倍体胚を作出し、倍数性の系列で比較を行う。また、初 期胚に由来する幹細胞系譜である、胚性幹細胞、栄養膜幹細胞、および胚体外内胚葉細胞の全3系譜を用いる。これにより胚盤胞を構成するすべての種類の細 胞 系譜を反映した幹細胞系譜での特性変化の追跡が可能となる。実験手法としては具体的には、細胞培養により基本的な性状の把握と、分化誘導実験、網羅的解 析および動物を用いた実験を予定する。 得られた結果に基づき、in vivoでの多倍体化胚のレスキュー実験へ展開する。これにより既に産業応用がなされている魚類の多倍体化による増産・育種・品種 改良技術等を哺乳類家畜への応用が期待できる。具体的には、早期成熟や病原耐性などといった付加形質を有する優良家畜増産へ貢献が期待できる。
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