研究課題/領域番号 |
20K15665
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山本 聡美 北里大学, 獣医学部, 助教 (70801364)
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研究期間 (年度) |
2021-02-01 – 2024-03-31
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キーワード | 牛RSウイルス / 牛呼吸器病症候群 / 混合感染 |
研究実績の概要 |
牛の肺炎等の呼吸器病は、ウイルス、細菌、マイコプラズマ等の混合感染と、それに様々な環境的な要因が重なって発症する複合病であり、これらを総称して牛呼吸器病症候群(Bovine respiratory disease complex: BRDC)と呼び、畜産業において大きな経済的問題となっている。本研究は、畜産肉牛が死に至る原因ともなるBRDCの重篤化の機序を分子生物学的な観点に基づいて解明することを目的とした。BRDCにおいては、ウイルスや細菌等の複数の病原体の病原性が相互に影響し合うことにより、単独の病原体による感染症と比較してより重篤な症状に至らしめる。本研究では、BRDCの一次要因と言われるウイルスとして、牛RSウイルス(BRSV)、常在細菌として4種類の細菌を用い、BRSV感染による細菌の細胞接着効率を指標にウイルスと細菌の相互作用の有無を検証した。その結果、昨年度までに、BRSV感染が複数種の細菌の細胞への接着を増強すること、一部の細菌においては、ウイルスタンパク質の一つが接着増強に関与していることを示した。本年度は、複数の遺伝子型のウイルス由来のタンパク質において、BRSV感染により示される細菌の接着増強は共通してみられる現象であることが示された。さらに、BRSV感染による細菌の接着が複数の菌株で増強されることが明らかとなった。また、特定の培養細胞株だけでなく、複数の培養細胞で共通の現象が観察された。以上のことから、BRSV感染による細菌の接着増強は、BRSVの遺伝子型や、菌株、培養細胞種に限定されず、広く引き起こされる現象であることが明らかとなり、BRSV感染が牛の常在細菌による感染症の重篤化を引き起こす可能性がより強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細菌あるいは宿主細胞由来の接着に関与する因子を同定すべく解析を行ったが、実施した方法では該当するタンパク質の同定には至らなかった。一方で、昨年度、細菌の接着に関与することを同定したウイルスタンパク質について、その接着に関与する詳細な部位の同定と、ウイルスタンパク質に対する抗体作製には取りかかっており、計画はおおむね順調に進展している。以上を総合的に判断して、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
BRSV感染による細菌接着に関与するウイルスタンパク質が同定できたため、そのウイルスタンパク質に対する抗体を作製し、抗体を用いた際の接着抑制効果を検証する。さらに、そのウイルスタンパク質が細菌の接着を増強する分子機構を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
細菌あるいは宿主細胞由来の接着に関与する因子を同定する過程で、当初検討していた手法では目的とする因子を同定できないことが判明した。そのため、本年度に予定していた解析が未実施であり、それらは次年度に実施する予定である。
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