研究課題/領域番号 |
20K15670
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
長澤 裕哉 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 研究員 (20759352)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 牛 / 乳房炎 / 黄色ブドウ球菌 / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
乳房炎感染歴のない初産牛5頭の各2分房の乳槽内へ約20 CFUの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:SA)、BM1006株を注入した。注入後5週まで乳汁を採材し、乳汁中のSAを単離してコンゴレッド寒天培地法(CRA法)およびマイクロプレート法にてバイオフィルム形成能を判定した。CRA法の結果、単離したSAの一部から赤色で辺縁がスムースなコロニー形態から感染後3週目から黒色で辺縁ラフなコロニー形態へ変化するものが出現し、それらをマイクロプレート法で定量解析した結果、黒色で辺縁ラフなコロニーのOD値が赤色で辺縁スムースなコロニーより高く示される傾向にあった。 次にCRA法により黒色を呈した12個の派生株に対してMLST、PFGEなどの疫学解析を行った。加えてPacBio RS IIを用いて感染前のBM1006株の全ゲノム塩基配列を決定した。その後NovaSeq 6000を用いて12個の派生株と感染前のBM1006株の塩基配列を比較解析し、遺伝子の変異部位を特定した。その結果、黒色を呈した12個の派生株は感染前のBM1006株と同一のSequence type(ST352)、PFGEパターンを示した。全ゲノム解析の結果、同一の牛の各分房中で一方の分房ではagrA、もう一方ではsigBにそれぞれ共通の変異が確認された。また、黒色を呈した12個の派生株のタンパク発現をOriole染色およびWestern blot解析により比較解析した。感染前のBM1006株と比較して、agrAに変異のある派生株とsigBに変異のある派生株ではタンパクの発現パターンが異なった。また、バイオフィルム形成能に関与するClfAとEapの発現量がagrAとsigBに変異のある派生株で異なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は単一のSA株を牛の乳房内に感染させ、その分房の乳汁から複数の派生株を単離し、バイオフィルム形成能に関わる遺伝子あるいはタンパク質発現の比較解析を行った。当初の予定通り、バイオフィルム形成能の異なる派生株に特異的な遺伝的変異を検出・同定することが出来たため、本課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度においては、SAは乳房内に感染している間に遺伝子の変異が起こり、それに伴ってバイオフィルム形成能およびタンパク発現パターンに違いが出ることがあることを見出した。こうした変異が黄色ブドウ球菌性乳房炎の病態に影響を与える可能性がある。今後の研究として、派生株における今回同定した以外のタンパク発現を比較解析し、乳房内バイオフィルム形成に関わる分子を同定する。さらにagrAとsigBに変異のある派生株の性状がバイオフィルム形成能の変化により乳房炎の病態とどう関わるか解析する。具体的には、牛の代替としてカイコを生体内でのSAのバイオフィルム形成能を評価するモデルに用い、SAのバイオフィルム形成能の変化が病態に及ぼす影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品類が当初計画より安価に購入出来たため、未使用額が生じた。想定していたより多くの派生株を単離することが出来たため、それら派生株のタンパク解析用の消耗品費として未使用額を支出予定である。
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