研究課題/領域番号 |
20K15676
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栃内 亮太 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (90833997)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 抗がん剤 / 心毒性 / BRD4 / BET family タンパク |
研究実績の概要 |
がん増殖において重要なBET family タンパク質であるBRD4を阻害する薬剤を投与することにより、良好な抗腫瘍効果を得られることが報告されている。さらに、BRD4阻害薬には炎症反応を制御する作用もあることも明らかになっている。これらのことから、心毒性を有する既存の抗がん剤とBRD4阻害薬を併用することにより、心毒性リスクを軽減させた化学療法が可能になる可能性が考えられる。そこで本研究では、臨床で心毒性が問題となっている抗がん剤について、BRD4阻害薬との併用により心毒性が減弱できる可能性とその際の抗腫瘍効果について非臨床試験を実施し、BRD4阻害薬を活用した心毒性の低いがん化学療法を開発することを目指している。 本年度はまず、心毒性発現用量の化合物XとBRD4阻害薬とを併用した際の動物の忍容性について検討を行った。その結果、化合物XとBRD4阻害薬の併用群では、化合物X単剤の投与群よりも生存率の高値が認められた。さらに、病理組織学的解析において、心臓における炎症性細胞浸潤の軽減傾向が認められた。一方、消化管毒性に起因すると考えられる体重減少や腸管の拡張は両群間に差は認められなかった。今後は、各種生化学的検査、サイトカイン発現解析、心機能評価ならびに心臓以外に対する毒性評価を実施する予定である。 続いて、次年度に実施するイヌの乳がん細胞株を用いた薬効評価を行う前段階として、同細胞株の両剤に対する in vitro での感受性評価およびマウス xenograft モデルの作製を行い、感受性の確認と担がんモデル作製のプロトコル確立が完了した。今後、これらの 薬効評価系を用いて両剤の併用効果について解析を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、本年度実施した毒性学的解析により、BRD4阻害薬が化合物Xによって誘発される心筋の炎症性変化を抑制することで、毒性を軽減できる可能性が示唆された。また、両剤併用時の心臓以外の毒性軽減効果については詳細は不明であるものの、現段階において問題となる毒性増強は認められておらず、心毒性以外の観点からも両剤の併用が許容されると考えられる。さらに、今後実施する薬効評価において、両剤併用時の相加・相乗的効果が認められれば、化合物Xの臨床用量を低減させられる可能性があり、その場合は更なる毒性の軽減を期待できる。 当初の計画では、本年度はin vivo 薬効評価を実施し、薬効評価を次年度に実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症による行動制限の影響により、in vivo 試験の進捗が想定よりもやや遅れているものの、次年度に着手予定であった薬効評価の準備を進めることができたため、総合的にはおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、下記の2点の研究計画を実施する予定である。 1)化合物Xの毒性モデルを用いたin vivo 毒性評価:本年度実施した結果に基づき、各種検査の検査項目やタイムポイントを設定し、血液生化学的検査、サイトカイン発現解析、画像解析(心エコー)ならびに病理組織学的解析をもちいた毒性解析を実施する。 2)in vitro 薬効評価:イヌの乳がん細胞株に化合物XとBRD4阻害薬を併用投与し、細胞生存性やアポトーシス誘発性を評価する。 3)in vivo 薬効評価:同腫瘍細胞株のマウス xenograft モデルに両剤を併用投与し、薬効を評価する。 これらの1)ー3)結果を基に、両剤の併用効果と毒性を明らかにし、その有用性を評価する。
|