慢性腎臓病に罹患した猫(CKD猫)と罹患していない猫(非CKD猫)の腎臓組織における脂肪滴の局在について、組織のホルマリン固定時に溶出した脂肪滴の痕跡である空胞を観察し比較した。空胞は、尿細管領域に多く存在し、その割合はCKD猫において非CKD猫より多い傾向を示した。次に、CKD猫と非CKD猫のそれぞれの腎臓組織について、含有する脂肪酸の種類と量を超高速液体クロマトグラフィー質量分析(UPLC-MS/MS)により網羅的に解析するとともに、脂肪酸代謝に関わる転写因子(PPARγ、PPARαおよびSREBP1)の発現量をリアルタイムRT-PCRにより定量した。猫の腎臓に含まれる脂肪酸種はC16:0、C16:1およびC18:0が多く、これらの含有量は総じてCKD猫のほうが非CKD猫より多い傾向を示した。CKD猫の腎臓におけるPPARαとPPARγの発現量は非CKD猫の腎臓と同等であったが、SREBP1の発現量は非CKDより多い傾向を示した。これらの結果から、CKD猫の腎臓ではSREBP1の発現が増加し、尿細管領域へのC16:0、C16:1およびC18:0などをはじめとする脂肪酸の蓄積が増える可能性が考えられた。また、CKDまたは健常の猫と犬それぞれにおいて、尿中に存在する脂肪酸種をUPLC-MS/MSにより網羅的に定量して比較した。CKD猫では糸球体濾過量の低下に伴い尿中の脂肪酸含量が増える傾向にあり、その傾向はC16:1、C18:1およびC18:2といった不飽和脂肪酸種において顕著であった。一方、犬では一部のCKD症例に限って同様の傾向を認めた。以上のことから、CKDの猫では一部の脂肪酸種が腎尿細管領域に蓄積し、それらに由来する不飽和脂肪酸の尿への排泄が増加すると考えられ、CKDの犬でも病態によっては同様の傾向を示すと考えられた。
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