令和4年度は、高着床能力胚の生産を可能とする核成熟速度に対応したウシ卵子体外培養系を構築するために、「黒毛和種未経産牛由来卵子を対象とした核成熟速度の非侵襲的な予測モデルの作成」と「モデルにより予測された各成熟速度と発生能との関連性の解析」を行った。まず、食肉処理場由来卵巣由来のウシ未成熟卵子卵丘細胞複合体(COC)149個を対象とし、個別培養系を用いて18時間成熟培養(IVM)を実施した。IVM中、経時的にCOCの形態を撮影し、IVM後の核相を卵子毎に評価した。IVM後に第二減数分裂中期(MII)に達したかどうかの予測モデルを線形モデルおよび4種の機械学習(決定木、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシンおよびランダムフォレスト)により作成し、その精度を一つ抜き交差検証により比較した。その結果、決定木によるモデルはF値が最も高く(0.79)、本モデルで分類した卵子のIVM18時間後でのMII割合は有意に異なっていた(80 vs 30%)。続いて、COC 115個を対象とし、IVMから発生培養までの全ての過程を行った。上述のモデルによって卵子の分類を行い、卵割および胚盤胞への発生率の比較を行った。結果、核成熟が早いもしくは遅いと分類された体外受精後48時間目の卵割率および168時間目の胚盤胞への発生率は、それぞれ70 vs 68%および34 vs 41%であり、分類ごとの違いはみられなかった。 研究期間を通じて、成熟培養時における核成熟速度の非侵襲的な予測モデルの作成に成功した。また、核成熟速度が、卵子の由来となる品種(ホルスタイン種、黒毛和種およびF1)により影響を受けるため、品種毎にモデルを作成する必要性が明らかとなった。今後の課題は、予測モデルの精度改善および本モデルを活用したウシ卵子体外培養系の構築である。
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