研究課題/領域番号 |
20K15683
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
亀島 聡 北里大学, 獣医学部, 講師 (80826363)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 変性性僧帽弁疾患(MMVD) / 心臓弁間質細胞(VIC) / 心臓弁内皮細胞(VEC) / トランスフォーミング成長因子(TGF)β / 骨形成タンパク質(BMP) / メトホルミン |
研究実績の概要 |
犬で最も多い心疾患である変性性僧帽弁疾患(MMVD)の病態では、トランスフォーミング成長因子(TGF)βおよび骨形成タンパク質(BMP)による間質細胞(VIC)および内皮細胞(VEC)の形質転換を介した心臓弁膜の変性が誘導・促進される。2型糖尿病治療薬であるメトホルミンは、TGFβおよびBMPに対して偽受容体として機能するBMP and activin membrane-bound inhibitor (BAMBI)の発現増加を介してTGFβおよびBMPによるシグナル伝達を阻害することが報告されており、弁膜変性を抑制的に制御する可能性がある。これまでにラットVICにおいて、メトホルミンがBAMBIのmRNA発現を増加させることを明らかにしていた。加えて令和2年度(1年目)は、ラットVICにおいてメトホルミンが、TGFβによるSmad2/3/α-smooth muscle actin (α-SMA;筋線維芽細胞マーカー)経路の活性化およびBMP4によるSmad1/5のリン酸化を抑制すること、TGFβシグナルに対する抑制性分子であるprotein phosphatase (PP)2CαのmRNA発現を増加させることを明らかにした。そこで令和3年度(2年目)は、メトホルミンによる上記の抑制機序の詳細を明らかにすることを目的とした。ラットVICにおいて、BAMBIまたはPP2Cαに対するsmall interfering (si)RNAによる遺伝子ノックダウンは、メトホルミンによるTGFβ誘導性Smad2/3リン酸化の抑制に影響を及ぼさなかった。一方メトホルミンは、ラットVICにおけるSmad2/3のタンパク質発現レベルを減少させた。またメトホルミンは、BMPによるalkaline phosphatase (ALP;骨芽細胞マーカー)のmRNA発現増加および活性亢進を抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットより単離したVICにおいて、メトホルミンはTGFβ/BMPシグナルの抑制性分子であるBAMBIおよびPP2CαのmRNA発現レベルを増加させること、TGFβによるSmad2/3/α-SMA経路を抑制すること、そしてBMP4によるSmad1/5のリン酸化を抑制することを明らかにしてきた。そこでメトホルミンによるTGFβシグナルの抑制機序を解明するため、siRNAによるBAMBIおよびPP2Cαの遺伝子ノックダウンを行った。BAMBIおよびPP2Cαの遺伝子ノックダウンは、メトホルミンによるTGFβ誘導性Smad2/3リン酸化の抑制に影響を及ぼさなかった。一方メトホルミンは、Smad2および3のタンパク質発現レベルを減少させたが、その詳細な機序は明らかにできていない。またメトホルミンはBMP4によるSmad1/5のリン酸化に加えて、骨芽細胞マーカーの一つであるALPのmRNA発現および活性亢進を抑制した。現在、上述したメトホルミンによる細胞内シグナル伝達の抑制機序の詳細を明らかにするための検討を続けている。令和3年度(2年目)は、VECの内皮間葉転換に及ぼすメトホルミンの影響も検討する予定であったが、ラット弁膜組織からのVECの単離が難しく、未だ実験を開始できていない。そこでVECの代替としてラット血管内皮細胞株を導入し、TGFβおよびBMPによる内皮間葉転換に及ぼすメトホルミンの影響を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度(3年目)は、まず①ラットVICにおけるメトホルミンによるTGFβ/BMPシグナルの抑制機序を明らかにする。これまで着目してきたBAMBIおよびPP2Cα以外のTGFβシグナル抑制分子としてleft-right determination factor (Lefty)がある。TGFスーパーファミリータンパク質の1つであるLeftyは、TGFβおよびBMPによるSmadのリン酸化を抑制することが報告されている。一方メトホルミンは、Smad2/3のタンパク質発現レベルを減少させることを示した。ユビキチンリガーゼであるSmurfは、Smadタンパク質の分解を促進する。よってLeftyによるSmadリン酸化の抑制、およびSmurfによるSmadタンパク質の分解に着目した検討を行う。また②ラット血管内皮細胞株のEndMTに及ぼすメトホルミンの影響を明らかにすることに加えて、③培養ラット弁膜組織を用いたMMVDモデルの組織学的変化およびシグナル伝達に及ぼすメトホルミンの影響を検討する。この弁膜組織の器官培養によるMMVDモデルは、TGFβ/BMPに加えてMMVDモデルラットの作製に使用されるセロトニンを用いて作製する予定である。そのうえで④セロトニン誘発MMVDモデルラットの病態に及ぼすメトホルミンの影響を検討する。これらの網羅的な検討によりメトホルミンをMMVDに対する新たな治療候補薬にすることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定額のほとんどを使用したため、次年度使用額が生じた理由は特にない。翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する。
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