研究実績の概要 |
犬で最も多い心疾患である変性性僧帽弁疾患(MMVD)の発症および病態進展の機序として、僧帽弁膜組織におけるトランスフォーミング成長因子(TGF)βおよび骨形成タンパク質(BMP)の発現増加および活性化とそれに続く構造変化がある。本研究ではこれまでに2型糖尿病治療薬であるメトホルミンが、ラット心臓弁間質細胞(rVIC)におけるTGFβシグナル分子の活性化を抑制することを示した。令和4年度は僧帽弁の器官培養法を確立し、TGFβによるラット僧帽弁の構造変化に及ぼすメトホルミンの影響を検討した。TGFβ (10 ng/ml, 96 h)処置は摘出ラット僧帽弁膜を肥厚させ、メトホルミン(30 mM, 24 h)前処置はそれを抑制した。一方、メトホルミンはrVICにおけるBMPシグナル分子の活性化を抑制することも明らかにしており、その作用機序の解明を目的としてさらなる検討を行った。これまでにメトホルミンが、BMPに対する偽受容体であるBMP and activin membrane-bound inhibitor (BAMBI)のmRNA発現を増加させることを明らかにしている。またメトホルミンはAMP-activated protein kinase (AMPK)の活性化薬でもある。しかしBAMBI (1 nM)またはAMPK (10 nM)に対するsmall interfering RNA (24 h)を用いた遺伝子ノックダウンは、メトホルミン(10 mM, 24 h)によるBMP4 (30 ng/ml, 60 min)誘導性Smad1/5/9リン酸化の抑制に影響を及ぼさなかった。 以上の結果から、メトホルミンはTGFβによるラット心臓弁膜の構造変化を抑制することが示されたが、メトホルミンによるTGFβ/ BMPシグナル活性化抑制の詳細な作用機序は明らかにできなかった。
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