研究課題/領域番号 |
20K15687
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
安藤 清彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 主任研究員 (70806752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウシ白血病ウイルス / BLV / miRNA / レポーターアッセイ |
研究実績の概要 |
本研究は、ウシ白血病ウイルス(BLV)がコードするマイクロRNA(miRNA)が後から細胞に侵入するBLVの重複感染を阻害し得るか検証するものである。今年度は、BLV感染に応答してルシフェラーゼを発現するレポータープラスミドを構築し、レポータープラスミドとmiRNA発現プラスミドをともに導入した細胞を作出することで、miRNA の存在が後から感染するBLVの転写活性に影響を与えるかを定量的に検証した。 ルシフェラーゼ遺伝子の上流にBLV LTR配列を配置することで、BLVがコードする転写因子Taxに反応してルシフェラーゼを発現するレポータープラスミドを構築した。構築したプラスミドを感染性BLV検出アッセイに使用されるネコ由来細胞株CC81に導入してレポーター細胞を作出し、この細胞にセルフリーBLVを感染させることでウイルス量依存的にルシフェラーゼ活性が上昇することを確認した。 作出したレポーター細胞に昨年度構築した5種類のmiRNA発現プラスミド(miR-B1、2、3、4、5)すべてあるいはコントロールプラスミドを導入した後、セルフリーBLVを感染させることで、miRNAが発現している細胞に後から感染したBLVの転写活性が変化するかを評価した。その結果、miRNAを導入した細胞と対照細胞どちらにおいても同程度のルシフェラーゼ活性の上昇を認め、後から感染したBLV感染に伴うTax依存的な転写活性に有意な差を認めなかった。この結果から、「cell-to-cellの様式でウシBリンパ球に感染する」というBLV本来の感染様式とは異なり「セルフリーウイルスのネコ由来培養細胞への感染」という限定的な条件下での結果ではあるものの、miRNAの存在は後から感染したBLVの複製に伴う転写活性に影響を与えないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、初年度にレポーター遺伝子搭載BLVの作出とmiRNA発現プラスミド構築を実施し、2年目以降はウシ由来B細胞株にこれらの材料を導入して解析を実施する予定であったが、実験に使用可能なウシB細胞株の販売中止等の理由により、当初計画していたBLV本来の感染様式を模した実験系を構築することができなかった。しかし、一部計画を変更し、既存のCC81細胞を用いた感染性BLV検出試験系とBLV Tax反応性レポーター発現プラスミドを組み合わせた新規実験系(レポーターアッセイ)を構築することで、当初計画していたBLV本来の感染様式を模した実験系ではないものの、仮説を検証する評価系の構築及び検証実験を実施することができた。以上の状況から、当初計画からは変更があったがおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実験の結果、miRNAの存在は後から感染したBLVの転写活性に影響を与えない可能性が示唆された。入手可能な材料の制約等により本来のBLV感染様式を模した実験系による検証が実施できなかったものの、この結果は、miRNAが後から細胞に侵入するBLVの重複感染を阻害するという仮説を棄却するものであるため、今後は研究計画で予定していた「仮説が棄却された場合の検証」を実施する。しかしながら、さらなる検証を行うためにもBLV本来の感染様式を模したウシ由来B細胞を用いた実験系は必要不可欠であり、使用可能な細胞株が存在しないという課題を解決する必要がある。そのため最終年度は、当初計画にはなかったBLVの本来の感染標的であるウシB細胞由来培養細胞の新規作出を検討しつつ、miRNA以外のウイルス因子を発現するプラスミドを作出して2年目に構築したレポーターアッセイによる検証を行うことで、後から感染するBLVの活性を阻害しうる因子の探索を継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症流行の影響により参加を予定していた学会がすべてオンライン開催となったことや、計画変更により余剰金が発生したため、次年度に繰越を行った。繰越分は追加で必用となった実験系構築に使用する予定である。
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