本研究は、ウシ伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)がコードするマイクロRNA(miRNA)が後から細胞に侵入するBLVの重複感染を阻害し得るか検証するものである。BLVに感染した牛からは、基本的に1種類のBLV遺伝子配列しか検出されず、後に侵入するBLVに対する重複感染阻止機構の存在が示唆される。本課題では、BLV由来miRNAがこの現象を担う分子実態であるとの仮説のもと、miRNA発現プラスミドとレポーター分子を用いた検証実験を実施した。 当初計画では、レポーター遺伝子を搭載した組換えBLVを複数作出してウシB細胞に感染させ、これらの細胞を共培養することで“cell-to-cell感染”というBLV本来の感染様式を模した重複感染モデルを作出する予定であった。しかし、購入を予定していたBLV陰性ウシB細胞株が入手できなかったため、計画を変更して異種動物細胞とcell free BLVを組み合わせた重複感染実験系を構築した。具体的には、BLV由来転写因子に反応してルシフェラーゼを発現するプラスミドをBLVに感受性を示すネコ由来培養細胞CC81に導入することで、cell free BLV感染に伴うウイルスの複製を定量可能な実験系を作出した。上記細胞にBLV由来miRNA発現プラスミドを導入したのちcell free BLVを感染させることで、miRNAの存在が後から感染したBLVの転写活性に影響するか評価した。その結果、miRNA導入細胞と対照細胞どちらもBLV感染後同程度のルシフェラーゼ活性の上昇を認め、後から感染したBLVの転写活性に有意な差を認めなかった。以上より、“ウシB細胞のcell-to-cell感染”ではなく”異種動物細胞へのcell free BLV感染“という限定的な条件ではあるものの、miRNAは後から感染したBLVの複製に影響しないことが明らかとなった。
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