研究課題/領域番号 |
20K15700
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
守田 昂太郎 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (80826545)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胚性ゲノム活性化 / ラット / マウス / エピゲノム / ヒト |
研究実績の概要 |
マウスの初期胚では、胚発生に必須である胚性ゲノムの活性化が2細胞期で生じるが、ラットでは4~8細胞期で生じる。昨年度は、ラットの初期胚で様々なヒストン修飾の変化を調べ、その中でヒストンH3の27番目のアセチル化修飾であるH3K27acがマウスでは受精卵から2細胞期にかけて減少していくのに対し、ラットでは受精卵と2細胞期で高レベルに検出され、転写活性が活発になる4~8細胞期にかけてほとんど検出されなくなることを発見した。この修飾はヒストンシャペロンとして機能するBETファミリータンパク質によって除去され、RNA Pol IIの転写活性に関与していることが報告されているため、BRTファミリータンパク質の阻害剤JQ-1でラット受精卵を処理したところ、胚発生が2細胞期で停止することを明らかにした。今回、このBETファミリータンパク質に注目し、このファミリーを構成するBrd2、Brd3、Brd4、Brdtの4つの遺伝子をそれぞれノックダウンすることにより、胚発生へ及ぼす影響を調べた。まず、ラットの受精卵にそれぞれのsiRNAをマイクロインジェクションして胚発生を観察した。しかしながら、胚発生は胚盤胞期胚までの発生に目立った影響は認められなかった。次に4種類のsiRNAを合わせてインジェクションしたところ、JQ-1処理のように2細胞期で停止する胚が増加し、大部分が胚盤胞期胚まで発生しなかった。これらのことから胚発生にはBETファミリータンパク質が関与しており、それぞれが機能を補い合っていることが示唆された。マウス初期胚のデータベースより、マウスでは、BETファミリータンパク質の中でBrdtが未受精卵よりも受精卵で発現量が上昇していることが分かった。そこで、mCherry-Brdtを発現するプラスミドを構築した。今後、このプラスミドからmRNAを合成して受精卵に過剰発現させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、胚性ゲノムの活性化に関与している可能性のあるエピゲノム修飾H3K27acを同定し、当該年度はこのヒストン修飾の除去機構について調べる予定であった。H3K27acのヒストンシャペロンとして機能することが知られているBETファミリータンパク質に焦点を当て、申請者はBETファミリーのBrd2、Brd3、Brd4、Brdt mRNAに対するsiRNAを用いてラット受精卵にマイクロインジェクションを行い、それぞれの機能を抑制して胚発生に及ぼす影響を調べた。その結果、それぞれの単独のノックダウンでは胚発生には目立った影響は観察されなかったが、Brd2、Brd3、Brd4、Brdtに対するsiRNAを合わせてインジェクションしたところ、胚発生が2細胞期で停止する割合が増加し、大部分の胚が発生を停止して胚盤胞期胚まで発生しなかった。このことから、胚発生においてはBETファミリータンパク質の機能が重要であり、それぞれが機能を補い合っていることが示唆された。さらに、H3K27acとは別に、マウスではヒストンのアルギニンの2番目のメチル化であるH3R2me2sが胚性ゲノムの初期の活性化を促進していることを明らかにし、本研究成果が2021年の5月にScientific Reportsに掲載された。以上のことから、計画していた実験を遂行するだけでなく、胚性ゲノムの活性化のメカニズムの一端を別の面から明らかにした成果を論文で報告することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
BETファミリータンパク質が胚発生に重要であることが示唆されたが、マウスの初期胚の転写産物のデータベースを調べたところ、このタンパク質の中でBrdt遺伝子が1細胞期で発現量が著しく上昇していることが明らかになった。このBrdtに着目し、現在はmCherry-Brdtを過剰発現するプラスミドを構築したところである。このプラスミドからmRNAを合成し、ラット受精卵にインジェクションすることで胚性ゲノムの活性化が促進されるかどうかを調べる予定である。また、近年、マウスの胚性ゲノムの活性化因子として報告されているDUXと呼ばれるタンパク質がラットやヒトでは存在しておらず、ラットもヒトもDUX4が発現している。ヒト胚の転写産物を同定した論文によると、胚性ゲノムの活性化に相関して発現量が著しく上昇していることが明らかになっているため、DUX4にも着目して同様にmCherry-DUX4をラット受精卵に発現させて胚性ゲノムの活性化が4~8細胞期よりも早く促進されるかどうかを明らかにする予定である。
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