これまでに、マウス及びラット初期胚に5-EUを取り込ませて新規に転写されたRNAを検出したところ、大規模な転写活性がマウスでは2細胞期、ラットでは4~8細胞期で生じていることを成果報告した。2022年度では、ラット初期胚を用いてRNA-Seqを行い、各ステージの胚で発現している転写産物を調べた。その結果、転写産物は未受精卵、受精卵、2-cellで相関が非常に高く、4細胞期、8細胞期、桑実胚とは大きく異なっていることが、主成分分析やヒートマップの相関図から明らかであった。また、4細胞期、8細胞期、桑実胚の転写産物はこれらのグループで相関が高かった。これらのことから、2細胞期から4細胞期の間に転写機構が大きく変わることが示唆された。2細胞期のタイミングで起こる重要な転写機構を調べるために2細胞期における発現量の高い遺伝子を調べた結果、転写活性に関与するH3K27acのシャペロンであるBrdtが上位に検出された。これまでの実験から、様々なヒストン修飾を初期胚で調べた結果、H3K27acが転写活性化の時期に大規模に変化しており、H3K27acのシャペロンとして知られるBETファミリー遺伝子に注目していた。そこで、mCherry-BrdtのmRNAを作製してラットの受精卵にマイクロインジェクションして過剰発現させた結果、2細胞期における転写活性が促進され、5-EUのシグナルの上昇が認められた。DBTMEEデータベースを調べるとマウスでは、Brdtは受精卵で発現量が一過性に上がり、2細胞期で著しく発現量が低下することが分かった。以上のことから、マウスとラットではBrdtの発現パターンは異なっており、胚性ゲノムの活性化のタイミングにも重要な働きをしている可能性が示唆された。
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