ラット着床前胚は、長期の体外培養(1細胞期―胚盤胞期)によって、仮親の子宮に戻した後(着床後)の発生が阻害される。この発生阻害の原因を探るべく、ミトコンドリアの機能に焦点を当てて研究を進めた。ラット着床前胚は、体外培養によって、アポトーシスによる著しいDNAの断片化が引き起こされることが本課題で明らかとなった。アポトーシス経路には、大きく分けて2つの経路がある。細胞外のデスリガンドからアポトーシスシグナルを伝達するextrinsic pathway、ミトコンドリア外膜透過性の変動によってミトコンドリアからアポトーシスシグナルを伝達するintrinsic pathwayの二つである。本課題では、intrinsic pathwayにおけるミトコンドリア外膜透過性を変動させる遺伝子群の発現が上昇していることを明らかにした。2022年度では、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)を利用した遺伝子破壊実験により、これらの遺伝子群の中から体外培養ラット胚で起こるアポトーシスの引き金になっている遺伝子を一つに絞り込んだ。体外培養したラット胚で起こるアポトーシスによるDNAの断片化は非常に高度であり、これは着床後の発生に不利であることは容易に想像できる。ただ、アポトーシス自体は、胚の発生には必要不可欠であり、体外培養が胚へ及ぼす悪影響の結果としてアポトーシスが引き起こされたと考えることが自然である。したがって、今後は体外培養胚で引き起こされるアポトーシスの上流のメカニズムに焦点を当てて、体外培養が及ぼすネガティブエフェクトを探ることが重要である。
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