研究実績の概要 |
本研究では、NOG マウスを遺伝的に改良してその体内でヒト赤血球(hRBC)が長期間維持されるモデルマウスを樹立するため、NOG マウスのクッパー細胞による hRBC 排除機構の分子レベルでの解明を目的とし、令和 5 年度は以下の研究を行った。 本研究ではマクロファージ抑制効果が報告されている塩化ガドリニウムを NOG マウスに投与したところ、マウスの健康に明らかな影響を及ぼさずに、移入ヒト赤血球残留期間を延長すること、また、クッパー細胞には TRP チャネルスーパーファミリーが発現していることを見出した。そこで令和 5 年度は、クッパー細胞に発現する TRP チャネルの発現解析を RT-qPCR により行った。その結果、クッパー細胞には、TRPV2, TRPV4, TRPM2, TRPM6 ならびに TRPM7 の遺伝子発現が確認された。なかでも、TRPV4 ならびに TRPM2 の発現は、脾臓由来マクロファージや末梢血由来の単球よりも高かった。これらの結果により、クッパー細胞の機能調節における TRP チャネルの役割の重要性が考えられた。 本研究では、マウスクッパー細胞によるヒト赤血球の認識・排除機構の一つとして、Clec4F ならびに C3 の各分子の関与を明らかにした。さらに、C3 分子を欠損させたマウスのマクロファージ機能を塩化ガドリニウム投与によって抑制することにより、ヒト赤血球を 30 日以上に亘ってマウス血液中で維持することに成功した。塩化ガドリニウムの投与はクロドロン酸よりもマウスに対する毒性が少なく、本研究による成果はヒト赤血球を長期間維持できるモデルマウスの開発に向けた基礎的知見となるものと考えられる。
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