本研究課題は、ヒストンバリアントH3.3を体細胞核移植胚で過剰発現させることにより、遺伝子発現に抑制的なヒストンバリアントH3.1/H3.2の排斥を介して、体細胞核移植法の成功率を改善させることを目的とした。 まずH3.1/H3.2量が体細胞核移植法の効率に対してどの程度影響するのかを調べるため、体細胞核移植法の成功率が特に低いことが報告されているマウス栄養膜幹細胞 (TS細胞) に着目した。TS細胞におけるH3.1/H3.2のゲノム局在を解析したところ、H3.1/H3.2は数Mbにわたった巨大なドメイン状の領域を形成していることが分かった。体細胞核移植法の成功率には抑制的なヒストン修飾であるH3K9me3が強く影響することが報告されているが、H3.1/H3.2のドメイン構造においてもH3K9me3の強い濃縮が確認された。これらのことはH3.1/H3.2がH3K9me3を呼び込むことで核のリプログラミングに対して強い抵抗性を示す可能性を示している。実際、酵素的処理によってH3K9me3を除去したところ、核移植胚の発生効率は劇的に改善し、クローンマウスを作出することに成功した。TS細胞のような胚体外系列の細胞を用いてクローン動物を作出することは世界で初めての成果である。 次に核移植胚において、H3.3の過剰発現量とH3.1/H3.2の排斥量の関係性を検証したところ、12.5ng/uLのH3.3-mRNAを導入することで、核内におけるH3.1/H3.2量を約半分に減少させることに成功した。最後にこの条件で体細胞核移植法を行ったところ、微弱ながら改善傾向にあることが確認できた。 これらの成果から、ヒストンバリアントの量的操作という体細胞核移植法の新しい改善方法を提供することができた。
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