脊椎動物では、ウイルスなどの外来DNAに対する防衛策として、自然免疫であるcGAS-STING経路を備えている。この経路では、cGASが外来DNAに結合すると活性化して、STINGを介してサイトカインなどが合成されて炎症などの自然免疫応答を引き起こす。そのため、cGAS-STING経路の異常な活性化は、がん化、老化、自己免疫疾患などの重篤な疾患の原因となることが明らかになりつつある。一方で、細胞は自己の設計図であるゲノムDNAを持っている。自己応答を避けるために、cGASは自己と非自己のDNAを区別して、自己のゲノムDNAに対しては不活化しなければならない。本研究ではこれまでに、ヒトcGAS-ヌクレオソーム複合体の立体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を用いて決定することに成功し、その結果、cGASがヌクレオソームを形成したDNAに対しては不活性化するメカニズムを解明してきた。この構造において、cGASが2つのヌクレオソームを橋渡しするように結合しており、cGASがヌクレオソームを束ねる活性を持つことを見出した。そこで本年は、cGASがクロマチン構造に与える影響の解明のため、ヌクレオソームが連なるポリヌクレオソームを用いて、ポリヌクレオソーム-cGAS複合体を再構成し、性状解析を行った。これらの研究は、cGASが自己DNAに結合すると不活化するというメカニズムだけでなく、cGASによる能動的なクロマチン構造制御についての知見を示すものであり、自然免疫の新たな一面を明らかにするものと期待される。
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