研究課題/領域番号 |
20K15714
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
樽本 雄介 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (70551381)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / 転写因子 / 転写抑制補因子 / 未分化性 |
研究実績の概要 |
ヒト誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた独自の遺伝学的スクリーニングによって、多能性幹細胞の未分化性維持に重要な新規因子を複数同定した。その中で転写の制御に関連すると予想された一因子に着目し、その因子がどのように未分化性の制御に機能するか検討した。まず、クロマチン免疫沈降法と次世代シーケンスによって当該因子が染色体上のどの部位に結合するか調べたところ、遺伝子の発現調節に重要なプロモーターやエンハンサーなどの制御領域に結合していることが明らかとなった。このDNA領域に高頻度に結合がみられる既知の因子を探索したところ、未分化性維持に重要な転写調節因子として知られるPRDM14が同定された。これらのタンパク質は細胞内で結合していることが免疫沈降実験によって確認できた。一方、当該因子をノックアウトした際の遺伝子発現の変化を時間経過とともに調べたところ、分化に重要な遺伝子の発現の上昇がまず観察され、遅れて未分化性維持に重要な遺伝子の発現が低下することが示された。これらの結果は当該因子がPRDM14とともに分化に関わる遺伝子を抑制することで、多能性幹細胞の未分化性の維持に寄与することを示唆している。 ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞から生み出された研究成果を医療に応用し、疾患の治療へと結びつけるという試みは近年数多く実施されている。しかし、これら多能性幹細胞がどのようにして未分化性を維持しているのか、また、細胞株によって分化のしやすさに違いがあるのはなぜか、については未だ不明な点が多く、均一な品質の多能性幹細胞を供給することは困難であるのが現状である。本研究成果は、これらの課題を解決するための一歩となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スクリーニングによって同定した因子のクロマチン結合パターンの解析や、その因子をノックアウトした際の遺伝子発現の変化など網羅的なデータの取得・解析が順調に実施できている。また、当該因子の分解を誘導する実験系も新たに作製することができた。
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今後の研究の推進方策 |
同定した転写抑制補因子がPRDM14とどのように協調して多能性幹細胞の未分化性を維持しているのかについて、本研究で作製した誘導分解系を用いてより詳細な分子機構の解明をおこなっていく。また、細胞株間での表現系の違いを検討するため、複数のヒトiPS細胞株およびヒトES細胞株を用いた研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う研究活動時間の制限によって、年度前半の使用額が減少した。制限解除後に研究を再開したが、研究機材・試薬の一部は供給元あるいは輸送状況の引き続いての混乱により不足ぎみであり、それにあわせて研究計画の些細な変更をおこなったことが前年度(2020年度)に使用額が減少した大きな原因である。これらについては今年度(2021年度)には入手可能となることから、前年度からの繰越分と今年度請求分を合わせて従来の計画に沿った研究を実施する予定である。
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