研究課題/領域番号 |
20K15715
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
宮崎 亮次 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30827564)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 翻訳途上ポリペプチド鎖 / in vivo光架橋法 / VemP / 翻訳伸長停止 / Secトランスロコン / PpiD |
研究実績の概要 |
タンパク質が機能するためには、合成後に適切な場所に輸送され、適切な構造を形成する必要がある。この過程は、翻訳完了後にリボソームから離れた後だけではなく、翻訳途上時のリボソームと結合した新生ポリペプチド鎖の状態でも進行する。最近、新生鎖自身が機能を有することも明らかになり、新生鎖の構造状態や細胞因子との相互作用の理解は重要性を増しつつある。しかし、生細胞内で迅速に進行する新生鎖の動態変化を解析した報告はほとんどない。 本研究は、新生ポリペプチド鎖状態が安定なVemPをモデル基質とし、in vivo光架橋法を用いて細胞内での迅速な新生鎖の相互作用動態変化の解析を行う。それにより、未解明のVemPの翻訳停止解除の分子機構を明らかにすると共に、生細胞内での新生ポリペプチド鎖の迅速な相互作用の動態変化を分子レベルで解析できることを実証することを目的とする。 当該年度は、VemPの全領域を対象とした系統的な光架橋解析を行い、翻訳途上のVemPと相互作用する因子の同定を行った。その結果、相互作用が予測されたリボソームタンパク質やSecトランスロコンの構成タンパク質以外に、シグナル認識粒子とPpiDがVemPと直接相互作用することを示した。また、それらの相互作用因子がVemP機能に重要な役割を果たすことを見出した。さらに、パルスチェイス法とin vivo光架橋法を組み合わせた手法を用いて、VemPがシグナル認識粒子とまず相互作用し、その後、Secトランスロコン、PpiDと順に相互作用していくことを示唆する結果を得た。以上の結果から、in vivo光架橋法を用いて、細胞内で翻訳途上ポリペプチド鎖の迅速な相互作用動態を調べられることを実証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンパク質の多くは、翻訳途上時のリボソームと結合した新生鎖の状態で様々な因子と相互作用し、それにより成熟していく。また、新生鎖自身が機能分子として多くの細胞機能に関与することが明らかになってきており、細胞内での新生鎖の迅速な相互作用動態の理解は更に重要となっている。 本研究は、細胞内で翻訳が安定に停止する翻訳伸長停止配列をもつVemPをモデル基質とし、in vivo光架橋法を用いてVemP新生鎖の相互作用因子の同定とそのダイナミックな相互作用動態の解析を行い、それを通じて、細胞内で新生ポペプチド鎖の迅速な相互作用動態を解析できることを実証するものである。 当該年度は、当初の計画通り、VemP新生鎖と相互作用因子を同定するために、VemPの全領域を対象とした系統的な光架橋解析を行った。その結果、リボソームやSecトランスロコンの構成タンパク質等の相互作用が予測された因子以外に、シグナル認識粒子(SRP)とPpiDがVemPに直接相互作用することを見出した。さらに、これらの枯渇・欠失変異株を用いた解析から、SRPやPpiDがVemP機能制御に重要な役割を果たすことを示した。研究が順調に進展したため、当初の予定をさらに進め、パルスチェイス法とin vivo光架橋法を組み合わせた手法を用いて、VemP新生鎖の相互作用動態を詳細に解析した。そして、VemPはSRP、Secトランスロコン、PpiDと連続して相互作用していくことを示唆する結果を得た。 以上のように、本年度は当初計画していたよりも順調に研究が進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、VemPをモデル基質とし、in vivo光架橋法を用いて細胞内での迅速な新生鎖の相互作用動態変化の解析を行うことができることを示した。これは、細胞内での翻訳途上ポリペプチド鎖の相互作用様式やその動態の解析の基盤となりうる研究である。しかしながら、ここまでは翻訳途上鎖側の相互作用部位の詳細は明らかにしているものの、相互作用相手側の基質結合部位に関してはほとんど情報が得られていない。 今後はVemPをモデル基質として利用しつつも、その相互作用相手因子側に着目し、より詳細に翻訳途上ポリペプチド鎖の相互作用様式を解明できることを示していく。その相互作用相手ではPpiDに焦点を当てる。PpiDはSecトランスロコン近傍にあることが示唆され、膜透過反応に寄与すると考えられているが、その機能や構造等に関してはほとんどわかっていないためである。 PpiDを対象に系統的なin vivo光架橋解析を行い、VemPとの結合部位を同定するとともに、Secトランスロコンやその他の関連因子との相互作用を調べる。VemPと架橋するPpiDpBPA体が得られたら、それらを用いてパルスチェイス法とin vivo光架橋法を組み合わせた手法により、それぞれの領域と結合するタイミングを測定し、相互作用動態の詳細を明らかにする。また、PpiDはその構造が決定されていないため、詳細な相互作用様式に関して議論することは難しい。そこで、PpiDとそのパートナー因子であるYfgMを含めた複合体で結晶構造解析等によって、PpiDの構造決定を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う研究活動の一時的な停止により、当初の計画よりも実験に費やす時間が減少し、また学会参加の制限なども相まって次年度使用額が生じた。 2020年度の残額については、異動した機関での研究活動のセットアップのための、機器および消耗品として使用する予定である。
|