研究課題
Histone locus bodies (HLBs) とCajal bodies (CBs) によって遺伝子発現が制御されるヒストン遺伝子について、MED26の役割に注目して解析を行った。興味深いことに、MED26は細胞周期依存的にこれらの核内構造体と共局在することが示された。さらに、転写伸長複合体Little Elongation Complex (LEC) もMED26-HLBs-CBsと共局在したことから、これらの巨大複合体構造が細胞周期依存的なヒストン遺伝子発現に強く関与していることが示唆された。ヒストン遺伝子発現におけるMED26とLECの相互作用の役割を解析するため、MED26とLECの結合に必要なEAF1タンパク質に変異を導入しMED26-LEC結合能を欠失させた細胞株を作製した。その結果、変異型細胞株では、ヒストン遺伝子の発現低下に加えて、ヒストン遺伝子の転写終結異常が認められたとともに、HLBsとCBsの共局在性が顕著に低下していることが明らかとなったことから、MED26-LEC相互作用は、ヒストン遺伝子発現に必要な核内構造体の形成・融合に重要な働きをしていることが示唆された。さらに、PRO-seqによってRNAポリメラーゼの動態を解析したところ、驚くべきことに、RNAポリメラーゼがヒストン遺伝子に特有の一時停止パターンを示すことが明らかとなった。この新規のRNAポリメラーゼ一時停止をTPP (TES-proximal pausing) と名付け、変異型細胞におけるTPPを解析したところ、変異型細胞ではヒストン遺伝子領域におけるTPPが消失していることがわかった。以上の結果から、MED26とLECがHLBs-CBsの共局在化を促進し、TPPを制御することによって、ヒストン遺伝子発現を調節するという新規の転写制御メカニズムが浮上した。
1: 当初の計画以上に進展している
核内構造体とMediator複合体の相互作用によるヒストン遺伝子発現制御機構が順調に明らかになりつつある。さらに、ヒストン遺伝子領域特有のRNAポリメラーゼの一時停止 (TPP) を新規に発見するに至り、現在その分子メカニズムと生理学的意義の解析を進めている。以上の理由から、当研究は、当初の計画以上に進展しているものと考えられる。
転写終結点近傍におけるRNAポリメラーゼの一時停止 (TPP) を制御する分子メカニズムの解析、核内構造体の形成によるTPP制御機構の解析を行い、核内構造体がヒストン遺伝子発現を制御するメカニズムをさらに詳細に明らかにする。また、ヒストン遺伝子発現に関わる核内構造体と液-液相分離機構の関係性についても解析を行い、MediatorやLECを中心とした核内ドロプレットがHLBsやCBsなどの核内構造体とどのように相互作用するかについて解析を行い、液-液相分離の観点からのアプローチを実施する。さらに、こうした緻密なヒストン遺伝子発現制御機構が破綻した時、細胞増殖や腫瘍形成、細胞の恒常性維持などにどのような影響があるかを解析し、その生理学的意義を明らかにする。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Cell Reports
巻: 31 ページ: -
10.1016/j.celrep.2020.02.088