研究課題/領域番号 |
20K15722
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
市川 雄一 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がん生物部, 研究員 (20632160)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ELEANOR / ESR1 / ChIRP / non-coding RNA |
研究実績の概要 |
再発乳がんで高発現している非コードRNAエレノアによる、RNAクラウド形成を介した転写活性化機構の解明を目的とし、エレノアRNAとクロマチンの相互作用解析を行った。本研究では、ER陽性乳がん細胞株MCF7及びHCC1428から樹立した、再発乳がんモデル細胞LTED(long-term estrogen deprivation)を解析に用いた。 エレノアRNAが結合するゲノム領域を特定するために、ChIRP-seq(Chromatin Isolation by RNA Purification)法によるゲノムワイド相互作用解析を行った。その結果、エレノアRNAはESR1遺伝子座上流のクロマチン領域と相互作用する事が分かった。公開されているChIP-seqデータとの比較解析から、この領域は、活性化マークであるヒストンH3K27acや、転写調節因子であるBRD4がエンリッチしており、ER陽性乳がん細胞においてスーパーエンハンサーとして機能していることが示唆された。そこで、LTED細胞をBRD4の阻害剤によって処理したところ、エレノアRNAとクロマチンとの相互作用が弱まり、その結果ESR1遺伝子の転写が抑制されることが明らかになった。これまでの研究から、エレノアRNAはRNAクラウドと呼ばれる塊を核内で形成し、機能していることが示されている。今回、BRD4阻害剤によって、エレノアRNAクラウドの形成が阻害されることを明らかになった。これらの結果から、エレノアRNAとクロマチンの相互作用、RNAクラウド形成、ESR1遺伝子の転写活性化に、BRD4が関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は非コードRNAエレノアを研究対象とし、エレノアRNAがどのようなメカニズムによってESR1遺伝子の転写を活性化し、乳がんの再発に寄与するのか、その分子基盤を明らかにすることを目的としている。さらに、エレノアの特徴であるRNAクラウド構造についても、その形成メカニズムの解明を目指す。これまでの研究から、エレノアはクロマチンと相互作用して機能していると考えられてきたが、その詳細は全く明らかになっていなかった。本年度は、ChIRP-seq法を用いた解析から、エレノアRNAの相互作用領域を明らかにし、クロマチンとの相互作用には転写調節因子であるBRD4が関与している可能性を見い出した。エレノアと相互作用する因子はこれまでに分かっておらず、相互作用因子を明らかにすることは本研究計画の重要な目的の1つである。BRD4は様々な転写関連因子と相互作用する事が知られており、これらの因子がエレノアRNAと直接結合する可能性が高いと考えられ、今後の発展が期待できる。従って、本年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、エレノアRNAと直接結合するタンパク質を明らかにするために、BRD4またはBRD4結合タンパク質に対する抗体を用いた RNA Immunoprecipitation qPCR (RIP- qPCR)を行い、エレノアRNAが検出される因子を探索する。一方で、エレノアRNAに対するプローブを用いたChIRPを実施し、エレノアRNAと共沈降したタンパク質を免疫ブロット法や質量分析により明らかにする。エレノア結合タンパク質について、siRNAまたはLNAを用いたノックダウン実験を行い、エレノアRNA-クロマチン相互作用、RNAクラウド形成、ESR1遺伝子の発現調節などに及ぼす影響を調べる。 上記の計画と並行して、クロマチン高次構造に及ぼす影響を明らかにするために、3C-qPCRによる解析系の確立を目指す。 以上の解析により得られた結果から、エレノアRNA クラウドとクロマチンとの相互作用を介した転写活性化メカニズムの解明を目指す。
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