ER陽性乳がんで高発現しており、がん化や治療耐性化に関与する核内長鎖ノンコーディングRNA「エレノア」の機能解析を行った。エレノアは、クロマチンを取り囲むようにRNAクラウドと呼ばれる構造体を形成し、エレノアRNAクラウドに取り囲まれた遺伝子座は転写活性化することが報告されている。しかし、RNAクラウドを形成する機構や転写活性化の詳しいメカニズムは明らかになっていなかった。 本研究では、エレノアRNAが結合するゲノム領域を特定するために、ChIRP-seq(Chromatin Isolation by RNA Purification)法によるゲノムワイド相互作用解析を行った。その結果、エレノアRNAはESR1遺伝子座上流のクロマチン領域と相互作用する事が分かった。この領域は、活性化マークであるヒストンH3K27acや、転写調節因子であるBRD4がエンリッチしており、ER陽性乳がん細胞においてスーパーエンハンサーとして機能していることが示唆された。エレノアRNAをノックダウンし、BRD4結合領域をChIP-seq法を用いて解析したところ、エレノアRNAノックダウン条件下では、スーパーエンハンサーへのBRD4の集積が顕著に減少することが明らかになった。また、BRD4抗体を用いたRIP-qPCR法により、エレノアRNAとBRD4の結合が示唆された。さらに、エレノアを高発現している乳がん細胞をBRD4阻害薬で処理すると、増殖が抑えられた。これらの結果から、エレノアRNAはBRD4とスーパーエンハンサーの相互作用を活性化すること、BRD4はエレノアを高発現する乳がん細胞の増殖に必要であることが分かった。本研究で得られた成果は、がんの診断、あるいはBRD4を標的とした新たな治療戦略につながると期待される。
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