研究課題/領域番号 |
20K15725
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
井口 智弘 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 研究員 (10783516)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA replication / Cdc7 |
研究実績の概要 |
Cdc7 (Cell division cycle 7)-ASK(Dbf4)複合体は、MCMのリン酸化を行いDNA複製の開始を促進するだけでなく、減数分裂期組換え細胞分裂、DNA損傷修復等多様な染色体制御にも関与する。しかし、動物個体レベルでのCdc7の機能は大部分が未知である。 研究代表者らは、これまでにCdc7およびASKの組織特異的遺伝子欠損マウスを樹立した。そこで、本年度は主に、作製した欠損マウスの表現型の解析を行い、Cdc7欠損血球系細胞では野生型と同レベルMCMがリン酸化されていることを見出した。一方でASK欠損ではMCMのリン酸化は減弱していたことから、血球系細胞においてはCdc7キナーゼの代わりを担うメカニズムが存在することが考えられる。さらに、ASK欠損細胞ではリンパ球の初期分化障害が引き起こされていることを発見した。また、神経細胞における欠損においては、Cdc7、ASKともに同様の表現型を示し、特に小脳顆粒細胞において細胞増殖が抑制されることを発見した。また、酵母においてはCdc7の欠損をバイパスする変異(Rif1など)が既に同定されていたので、Rif1との二重欠損マウスを樹立し、マウスにおいてもCdc7、ASK単独欠損で見られたDNA複製に関する表現型の多くがRif1との二重欠損において回復することを明らかとした。今後、Cdc7、ASKの新規標的因子の探索を行うとともに、Cdc7、ASK非存在下におけるDNA複製メカニズムを解明していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、各欠損マウスの詳細な表現型の解析は順調に進展している。さらにCdc7、ASKとRif1の二重欠損マウスを樹立し、Cdc7、ASK欠損マウスの表現型を部分的にレスキューできることを発見した。しかし、マウスCdc7、ASKに対する質の良い抗体の作製は難航しており、代替として、CRISPR/Cas9によるエピトープタグをノックインしたマウスの樹立を行い、Cdc7あるいはASKの相互作用因子および標的基質の探索の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Cdc7、ASKの単独欠損マウスの解析を進めつつ、Rif1との二重欠損マウスの表現型との比較を行う。特にDNA複製開始機構やDNA複製スピード、複製タイミングなどを比較する。(2) エピトープタグをノックインしたマウスを用いてCdc7とASKそれぞれの新規標的基質の探索を行い、候補因子の同定を進める。(3)種々のキナーゼ阻害剤を用いて、野生型とCdc7あるいはASK欠損細胞の増殖に感受性の差があるか検討し、Cdc7あるいはASKの非存在下に重要な機能を有するキナーゼの同定を行う。これらの研究を行い、当初の目的であったCdc7およびASKの各細胞系列の分化及び機能における役割を明らかとし、Cdc7、ASKに依存しないDNA複製メカニズムの解明に向かい、研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、学会開催方式がオンラインとなり参加による旅費支出などがなくなったことや、一定期間研究活動が停止したことにより次年度使用額が生じている。翌年度は停止した研究活動期間に行う予定の研究を推進するとともに積極的に学会に参加することを計画している。
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