研究課題/領域番号 |
20K15728
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志甫谷 渉 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30809421)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ロドプシン / X線結晶構造解析 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
シゾロドプシンは、真核生物の起源に最も近いアスガルドアーキアから発見されたロドプシンであり、水素イオンを細胞内へ運ぶ機能を持つ。アスガルドアーキアが真核生物へと変化する過程で、太陽光や酸素のある環境に順応するために、シゾロドプシンによる水素イオンの取込みが関わっている可能性がある。しかし、シゾロドプシンが水素イオンを、どの様にして効率的に細胞内に運ぶのか、そのメカニズムは不明だった。我々はX線結晶構造解析によりシゾロドプシンの立体構造を決定した。構造を他のロドプシンと比較することで、従来不明だったロドプシンは、進化的に既存のタイプ1ロドプシンとヘリオロドプシンの中間の位置に存在することをを明らかにした。また、シゾロドプシンは細胞内側の膜貫通領域が短く、水素イオンをタンパク質の細胞内側に放出しやすい構造をしており、細胞の外から取り込んだ水素イオンを細胞内側の溶媒へ直接放出するという、既知のロドプシンとは異なる水素イオンの輸送機構が明らかになった。 好熱性アーキア由来のシゾロドプシンは、今まで発見されたロドプシンの中で最も高い熱安定性を持つ。この理由を探るために、好熱性アーキア由来シゾロドプシンの構造決定に成功した。構造から、レチナールの周りの空間が他のロドプシンと比べて狭くなっていることが高い熱安定性の理由であることを解明し、現在分子動力学を用いた解析を行っている。また、違い種類のシゾロドプシンの結晶化にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シゾロドプシンの構造決定に成功できた。さらに、好熱性アーキア由来ロドプシンの構造決定二成功し、ユニークなイオン輸送機構や高い熱安定性の構造基盤を解明した。現在分子動力学を用いたシュミレーションによって検証中である。さらに、いくつかの興味深い歯ゾロプシン変異体を精製し、共同研究先と共同で分光解析を行っており、より深くシゾロドプシンの構造機能活性相関を理解することができる。更に、未発表のロドプシン2種類について構造解析に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、光遺伝学で使われているRhGCの構造解析および、酵素型ロドプシンRh-PDEやNeoRの全長の構造解析に挑む。既にる粘菌由来RhGCを哺乳細胞に大量発現させて精製することに成功している。X線結晶構造解析によってRhGCの膜貫通領域の構造を決定している。これらの構造から、RhPDE(二量体)とRhGC(単量体)での量体数の違い、予想されていた8本目の膜貫通ヘリックスの存在(TM0)などの酵素型ロドプシン特異的な構造的特徴について明らかになりつつある。しかし、酵素ドメインを含んだ状態で構造決定できていないため、光依存的な構造変化や酵素活性制御メカニズムも部分的な推察にとどまっている。そこでRhPDE、RhGCの全長構造をクライオ電子顕微鏡による単粒子解析によって決定する。らに、光を当てるものと当てないものとの両者の違いを比較して、光による酵素活性の調節機構を解明する。既にクライオ電子顕微鏡TALOSを用いて撮影し、暗状態の酵素型ロドプシンの二次元平均像を得ることに成功している。今後は、基質ミミックなどを加えて状態を固定化し全長構造を4Åを超える分解能で構造決定する。近赤外を受容するNeoRの精鋭にも成功しており、クライオ電子顕微鏡法を用いた構造解析を行う。さらに、RhPDE, RhGCの構造を特異的に認識する構造認識抗体の取得に成功しており、分子量を大きくすることによって構造解析の成功率を上げる。低分解能でしか構造決定できない場合は、高分解能のTMDや酵素ドメインの構造をフィットすることで全長構造モデルを作成する
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響でX線回折実験のためのSPring-8出張や学会発表がすべてなくなり、出張費用が全てなくなった。さらに、コロナの影響で大学が閉鎖された結果、実験ができなくなり、消耗品として計上する費用が減ってしまった。さらに、購入を予定していた機器が値上がりした結果、この予算では購入が難しくなってしまい、次年度使用額が生じた。今年度は、次年度使用額をPCR装置またはインキュベーターなど、本研究の遂行に必要不可欠で予算内で購入可能な機械を購入するとともに、研究遂行のための界面活性剤や培地、アフィニティ樹脂の消耗品代として計上する。予算を無駄なく使用して、本研究をよりよく遂行するのに尽力 していきたい。
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