炎症性腸疾患(IBD)は指定難病に指定されており、患者数が年々増加傾向にある。IBDの病因タンパク質の一つであるNOD2はNOD-like receptor (NLR) ファミリーに属しており、活性化機構の構造基盤およびIBDとの関連性の分子基盤が解明されていない。本研究では、NOD2の活性制御に重要な脂質膜環境における立体構造の解明を目指している。 昨年度ではNOD2と酸性ポリマーであるヘパリンとの結合を同定し、クライオ電顕により複合体構造解析を行っていた。その結果、リガンド由来の電子密度は観測されたが、分解能が低いため、モデリングが困難だった。そこで、独自な分子修飾法であるPEGylation法を用いた試料調製により、NOD2全長の構造解析に成功した。これをきっかけにPEGylationにより試料調製法はクライオ電顕解析の試料クオリティを改善できることを見出した。本研究成果はStructure誌に掲載された。現在、本法を適応したNOD2/酸性nanodisc複合体とNOD2/ヘパリン複合体の調製および電顕解析を実施している。 一方、NOD2と同じNLRファミリーに属するNLRP3の構造・機能解析も行っていた。多量体型NLRP3はNOD2と類似した酸性脂質結合能を示した。本研究成果はProceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載された。このように、酸性膜脂質環境は多くのNLRの活性制御に必要である可能性が示唆されている。
|