研究課題/領域番号 |
20K15731
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
櫻木 崇晴 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任研究員 (10867906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スクランブラーゼ / 構造解析 / 単粒子解析 / Xkr8 / Basigin |
研究実績の概要 |
細胞膜を構成するリン脂質はその内層と外層で非対称的に分布する。アポトーシス細胞ではこの非対称性が崩壊し、通常細胞膜の内層に限局するホスファチジルセリンが速やかに外層に移層する。細胞表面に露出されたホスファチジルセリンは‘eat me’シグナルとして働き、マクロファージによる貪食を促進する。この過程において、リン脂質を区別無く、双方向に移層するタンパク質(スクランブラーゼ)であるXkr8/Basigin複合体がホスファチジルセリンを細胞表面に露出させるが、Xkr8/Basigin複合体がどのような仕組みでリン脂質をスクランブルするのかは分かっていない。そこで、低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析による、Xkr8/Basigin複合体の構造解析を試みた。Xkr8/Basigin複合体はその分子量が8万に満たない小さな分子であることから、電子顕微鏡での観察は困難と思われたが、この複合体の非変性状態を認識する抗体のFab領域を結合させることで、コントラストの良い粒子像を撮影することが可能となった。また、電子顕微鏡観察用のグリッドを作る際に、粒子が気液界面に移動し、変性してしまう問題や、粒子の向きが一定の方向に偏ってしまう問題もあったが、タンパク溶液へ低濃度の界面活性剤を添加することにより、これらの問題を解決することができた。最終的には、単粒子解析により、4オングストローム程度の分解能の密度図が得られ、定常状態のXkr8/Basiginの原子モデルを作ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、X線結晶構造解析には成功しなかったが、低温顕微鏡による単粒子解析の手法を取り入れることで、定常状態のXkr8/Basiginの構造を決定することができた。定常状態の構造からも、リン脂質スクランブルの機序を理解するための多くの情報が得られると考えられる。また、今年度得られたグリッド作製に関する知見は、来年度、活性化型Xkr8/Basiginの構造を決定する上でも有用な情報となる。よって、本課題の進捗状況として、上記区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はXkr8/Basiginの定常状態の構造を決定した。今後、まずは、定常状態の構造を詳細に観察し、活性化機序に関する仮説を立て、変異体解析により検証する。並行して、活性化型のXkr8/Basiginの構造解析を進める。課題としては、活性化型Xkr8が不安定であることが挙げられる。これを解決するため、活性化型Xkr8を安定に精製する方法を探していく。具体的には、脂質ナノディスクにXkr8を埋め込むことで、活性型Xkr8を安定化することを試みる。最終的には、すでに得られている定常状態の構造と活性化状態の構造を比較し、Xkr8/Basigin複合体の活性化機構、およびこの複合体によるリン脂質スクランブルの機序を明らかにする。
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