細胞膜を構成するリン脂質はその内層と外層で非対称的に分布している。例えば、ホスファチジルセリンは全て内層に局在するが、ホスファチジルコリンは主に外層に存在する。アポトーシス細胞ではこの非対称性が崩壊し、通常細胞膜の内層に存在するホスファチジルセリンが細胞表面に露出される。細胞表面に露出されたホスファチジルセリンは貪食細胞に対する‘eat me’シグナルとして働き、貪食を促進する。この過程には、リン脂質を区別無く双方向に輸送する膜タンパク質、スクランブラーゼの活性化が必要である。アポトーシス時に働くスクランブラーゼの実体としてXkr8/Basigin複合が同定されたが、この分子がどのようにリン脂質を認識し、輸送するのかは分かっていない。 前年度に、低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析によってXkr8/Basigin複合体の定常状態の構造を3.8オングストロームの分解能で決定することに成功した。今年度は、その構造を基に変異体解析を行うことで、スクランブラーゼの作用機序の一端を明らかにした。具体的には、リン脂質の結合する疎水性の溝がリン脂質の出入口であること、Xkr8の膜貫通領域に階段状に並ぶ荷電アミノ酸が、リン脂質頭部が細胞膜を通過する際の通路を提供していることが示唆された。さらに、Xkr8に結合したリン脂質と、リン脂質の通路の細胞外側の端との間に存在するトリプトファンが、リン脂質のゲートキーパーとしてXkr8/Basigin複合体の活性を制御している可能性も示唆された。
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