研究課題/領域番号 |
20K15732
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹川 宜宏 大阪大学, 理学研究科, 助教 (50791810)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ストマチン / チャネル / トランスポーター / 線虫 / 細菌 / べん毛 / 蛋白質間相互作用 |
研究実績の概要 |
細胞や細胞内小器官の膜中には、チャネルやトランスポーターなどの膜タンパク質が存在し、膜を介したイオンや水溶性物質の移動を担う。ストマチン様タンパク質(stomatin-like protein、以下slipin)は様々なチャネル/トランスポーターの活性制御に関連するタンパク質ファミリーの一種であり、真核生物から原核生物まで共通して保存されている。本研究では、slipinおよび、それが制御するチャネルタンパク質に着目し、それらの相互作用機構を構造学的手法により明らかにすることを目的とする。slipinは同一のファミリーに属しながら、多岐に及ぶ膜タンパク質と相互作用する。本研究では線虫と細菌の2種の生物をモデルとして、線虫の神経のslipin (MEC-2)とNa+チャネル(MEC-4)あるいはギャップ結合チャネル(INX-4)、細菌のべん毛のslipin (FliL)とH+/Na+チャネル(MotA/B)に着目し、それらの複合体構造をX線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡観察により明らかにし、相互作用機構を分子構造の知見から考察することを目的とした。MEC-2およびMEC-4の様々なフラグメントの発現系を確立し、安定的に精製可能なフラグメントの同定に成功した。全長MEC-4は発現細胞に対して高い毒性を有することが分かったため、相互作用における機能性は確保しつつも、毒性を回避するような変異体の作成を行っている最中である。海洋性細菌Vibrio alginolyticusが有する二種類のべん毛のうち、機能的に重要とされる側べん毛FliLの発現系を確立し、リフォールディングによる高効率な精製に成功した。FliLの多量体構造を作りやすい性質を再現よく確認でき、同時にその相互作用パートナー(MotA/B)の発現系の確立を行うことで、相互作用解析の十分な下準備が完了できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響により、実験進行のための十分な人員および時間を割くことが難しかったため。研究の方向性としては概ね想定通りの方向に進んでおり、研究そのものには問題は生じていないことを補足する。
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今後の研究の推進方策 |
FliLとMotA/Bの複合体、MEC-2とMEC-4の複合体、MEC-2とINX-4の複合体の構造を、X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡 (cryo-EM)を用いた解析により明らかにする。全長タンパク質の構造解析を目指すが、同時に、より難易度の低い、推定相互作用ドメインの複合体構造を明らかにすることも目指す。FliLとMotA/Bの複合体に関してはその詳細な相互作用部位が生理学・生化学的手法により明らかになりつつあるため、部位特異的に架橋を行うことで複合体形成の促進・安定化を行うことで効率的に複合体としての構造解析を行う。MEC-2とMEC-4の複合体に関しては前記のような毒性の回避のための変異体作成を着実に進めることで安定的な複合体の精製を行う。得られたslipin-チャネル複合体の構造とチャネル単独での構造を比較することで、slipinがチャネルのどこに相互作用することで、どのように構造が変化し、その結果どのようにチャネルの機能が制御されているかを明らかにする。全長構造ではなく複合体の部分構造のみが明らかになった場合も、チャネルの単独構造との比較・当てはめを行い、in silicoで再ドッキング・分子動力学的解析を行うことで、slipinの結合によるチャネルの構造変化を明らかにする。
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