令和2年度までにホスファチジルエタノールアミン(PE)の生合成を担う大腸菌由来ホスファチジルセリン脱炭酸酵素の結晶構造を明らかにし,PE生合成のメカニズムを明らかにした。アグロバクテリウム等,一部の植物病原細菌ではPEからホスファチジルコリン(PC)が生合成される。PCを生合成できないアグロバクテリウムは,植物への感染能を失うことから,PCが植物への感染プロセスに重要な役割を担うと示唆されている。PEからPCの生合成はリン脂質メチル基転移酵素PmtAが担っているが,PmtAによる基質認識機構などPC生合成の詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで令和3年度は,構造生物学的手法を用いてPmtAによるPC生合成メカニズムの解明をめざした。アグロバクテリウム由来PmtAを大腸菌の系を用いて調製し,補酵素であるS-アデノシルホモシステイン(SAH)を混合することで結晶を得ることに成功した。SPring-8のBL32XUにて回折データを収集し,2.0 Å分解能で結晶構造を決定した。PmtAはロスマンフォールドを形成しており,そのフォールド中の溝にSAHが結合していた。NMR法を用いた滴定実験および結晶構造に基づいた変異実験からSAHの結合に重要なアミノ酸残基を同定した。また,基質であるPEのドッキングモデルを構築し,基質認識特異性に関与するアミノ酸残基を同定した。今回得られた知見はPmtAをターゲットとした植物病原細菌に対する新規農薬開発への応用が期待される。
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