研究課題/領域番号 |
20K15735
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
守屋 俊夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任准教授 (20565014)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡学 / 量子コンピュータ技術 / 画像処理 / 機械学習 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
創薬の標的ではあるが結晶化の難しい多くの膜タンパク質や超分子複合体等、X線結晶構造解析法の適用が難しい対象の立体構造を原子分解能で可視化する技術として、現在、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析は急激に成長している。それに伴って本手法に要求されるデータ量と計算量も急増し続けている。このような背景を踏まえ、本研究では単粒子解析に量子コンピュータ技術を応用することで、その最終出力である生体高分子立体構造の分解能を向上しつつも実用的計算時間に収められるソフトウェアの開発を将来に渡っても停滞させないための技術基盤を確立することを目指している。 当初の計画通り、初年度(令和2年度)では巡回セールスマン問題として捉えた3次元角度推定への量子アニーリングの応用研究のデータ取得までを目指した。しかし、実際の実験データセットを用いたテストでは高い再現性と精度の3次元角度推定が得ることができなかった。これはクライオ電顕像のノイズレベルが高いことに起因する計算誤差が原因だと考えて、令和3年度から計算誤差を小さくする工夫を行ってみた。しかし、電顕画像ノイズレベルが高すぎる、電子顕微鏡特有のコントラスト伝達関数(CTF)による情報の変調を完全に補正できない等の問題があり、3次元角度推定への量子アニーリングの応用を行うことは難しいと判断した。 そこで、代替案としてタンパク質ダイナミクス解析への量子アニーリングを応用する検討を始めた。深層学習ベースのダイナミクス解析アルゴリズムであるCryoDRGNは複数の状態の構造を出力する。しかし、各構造状態の物理化学的な関連が不明なため、これだけではタンパク質がどのように動くかまでは解明することができない。そこで、CryoDRGNが出力する複数の状態の構造同士の自由エネルギー的な近さを計算し、最適なパスを見つけることに量子アニーリングを応用する研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では初年度中に、巡回セールスマン問題として捉えた3次元角度推定への量子アニーリングの応用研究のデータ取得まで行う予定であった。しかし、シュミレーションデータセットとは異なり、実際の実データセットを用いたテストでは高い再現性と精度の3次元角度推定が得ることができなかった。これは入力であるクライオ電顕像のノイズレベルが高いことが原因だと思われる。特に、量子アニーリングの入力として使用する二つの共通線の組みごとに計算する相関値とその角度の計算誤差、そして、量子アニーリングの出力として得られる最適な共通線セットから三次元角度計算をする上での計算誤差が問題となっている。そこで本年度(令和3年度)では、これらの計算誤差を小さくする工夫を行ってみたが、電子顕微鏡特有のコントラスト伝達関数(CTF)による情報の変調を完全に補正できない等の問題が新たにわかり、3次元角度推定への量子アニーリングの応用を行うことは難しいと判断した。 そのため、代替案としてタンパク質ダイナミクス解析への量子アニーリングを応用する案の準備を進めている。まず、ケーススタディとして深層学習ベースのダイナミクス解析アルゴリズムであるCryoDRGNをV-ATPaseの構造解析に適用し、その状態構造を複数個得ることができた。現在、共同研究者と協力してCryoDRGNが出力する複数の状態の構造それぞれの自由エネルギーを計算するアルゴリズムの研究開発を進めているところである。 最後に、本年度も雇用を計画していたソフトウェア開発のためのプログラミング補助員が見つからず、開発を予定通り進めることができていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、代替案であるタンパク質のダイナミクス解析(一つのデータセットに含まれる複数の構造状態を決定し、タンパク質の動きを解明すること)への量子アニーリング応用の検討を継続する。クライオ電顕分野においてタンパク質構造のダイナミクス解析は現在最も大きな課題の一つとして様々なアプローチの研究が現在進行中である。特に、深層学習をベースにした全く新しいアプローチのアルゴリズムの開発がここ数年で活発化してきている。その中で最も注目されているのはCryoDRGNである。ただし、CryoDRGNは複数の状態の構造を出力するが、それぞれの構造状態の物理化学的な関連はわからないため、これだけではタンパク質がどのように動くか(生物学的に意味のある構造変化)までは解明することができない。そこで、CryoDRGNが出力する複数の状態の構造同士の自由エネルギー的な近さを計算し、最適なパスを見つけることに量子アニーリングを応用を試みる。そのために、現在進行中の共同研究でCryoDRGNが出力する複数の状態の構造それぞれの自由エネルギーを計算するアルゴリズムの研究開発を継続して進める。同時に、共同研究の成果として得られる自由エネルギーランドマップを用いて、物理化学的に尤もらしい構造変化の最適なパスを探索する量子アルゴリズムを考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
雇用を計画していたソフトウェア開発のためのプログラミング補助員を見つけることができなかったため。
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