膜タンパク質や超分子複合体等の立体構造を原子分解能で可視化する技術として、クライオ電子顕微鏡を道いた単粒子解析が急激に成長している。それに伴い本手法に要求されるデータ量と計算量も急増し続けている。そこで本研究では単粒子解析に量子コンピュータ技術を応用することで、その最終出力である生体高分子立体構造の分解能を向上しつつも実用的計算時間に収められるソフトウェアの開発をするための技術基盤を確立することを目指した。 令和2年度から令和3年度では、巡回セールスマン問題として捉えた3次元角度推定への量子アニーリングの応用研究を行なった。しかし、実験データセットを用いた場合、高い再現性と精度の3次元角度推定が得ることができなかった。そこで、令和4年度では、代替案としてタンパク質ダイナミクス解析への量子アニーリング応用を検討した。深層学習ベースのアルゴリズムであるCryoDRGNはデータセットに含まれる粒子画像と同じ莫大な数の状態の構造をクライオ電顕マップとして出力するが、各構造状態同士の物理化学的な関連が不明なため、タンパク質の実際の動きは解明することができない。そこで、複数のCryoDRGN構造同士の自由エネルギー的な近さを計算し、最適なパスを見つけることに量子アニーリングを応用する研究に着手した。 これまで、基質無し条件下で取得したV型ATPase全体構造のデータセットの試験的な解析を完了し、従来法である3次元クラス分けで7構造状態まで分離した。さらに、CryoDRGNでの解析も行い、Vo部分のCリング構造と回転軸DFd複合体が連動して連続的な回転運動をする様子の一部を動画で可視化することに成功した。また、ダイナミクス解析は莫大な計算量を必要とするため、この解析計算のために生体高分子構造解析向けのクラウド計算環境であるGoToCloudを構築し、現在、論文の投稿準備を行なっている。
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