研究実績の概要 |
真核生物における転写機構の解明に酵母RNA ポリメラーゼIIがその扱いやすさから研究対象として用いられるが、同じ真核生物であっても酵母と哺乳類の転写機構や関連制御因子の違いは多い。本研究は哺乳類RNAポリメラーゼIIを研究対象とし、豚胸腺から内在性因子の調整を試み、12サブユニットで構成されるRNA ポリメラーゼIIの調整に成功した。他の転写制御関連因子(ヒトDSIF, NELF, P-TEFb/TAT, AFF4)はレコンビナント発現系(大腸菌、バキュロウイルスによる昆虫細胞、celll free発現系)を利用し、様々なカラムや沈殿法を駆使し、サンプル調製を行った。精製過程や構造解析で使用するDNA-RNA hybridの適切な設計も行い、Grafix法のようなタンパク質分子量分離手法を行いながらクロスリンクを行う方法や、抗体によるアフィニティー精製を駆使し、クライオ電子顕微鏡試料として最適な高純度サンプルを確立することに成功した。データーの測定、解析を行った結果、6.7Aで負の制御因子NELFと共同で働くDSIFが結合したRNAポリメラーゼIIの構造解析に成功し、その構造情報から負の制御因子NELFが、RNAポリメラーゼII上のヌクレオチドエントリーサイトを塞ぐような形でサブユニットA/Cを結合させている構造が観察された。また、RNAポリメラーゼIIの動きを妨げるように、はさみこむような形でNELF複合体が結合しており、構造情報からNELFが結合することでRNAポリメラーゼIIの動きを抑制していることが示唆された。さらには、哺乳類RNAポリメラーゼIIの試験管内転写再構成系も確立し、NELF存在下ではHIVのmRNAの合成がある一定の場所で止まる(Pause)ことも明らかにした。本研究の実績は、今後、HIVによる感染宿主RNAポリメラーゼIIの征服機構に活かしていく。
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