研究実績の概要 |
細胞内において活性酸素種は、DNA損傷等の原因になるのに加え、様々な経路におけるシグナル伝達物質としても必須である。ペントース・リン酸経路の中心的な役割を果たすグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)は、グルコースの代謝物であるG6Pの酸化とともにNADP+からNADPHへの還元を触媒するレドックス酵素である。そして産生されたNADPHによって細胞内の活性酸素の蓄積を抑制され、細胞恒常性が維持される。それゆえに、G6PDは細胞内の活性酸素種の制御に必須である。しかし、世界中でおよそ4億人がG6PD遺伝子に変異を有すると推定されており、変異によってはその活性が野生型の10%以下に低下し、慢性の溶血性貧血、敗血症、脳機能障害等の症状を呈するG6PD欠乏症を引き起こす。G6PDは単量体が不活性型、2量体及び4量体が活性型である。G6PD野生型の10%以下の活性を示すクラス1に分類される変異は、G6PD2量体形成領域に集積しているが、2量体形成領域における変異と活性低下との関係は全く明らかになっていなかった。本研究では、G6PD欠乏症におけるG6PD変異体の構造解明及び活性化を目的としている。我々のグループは、G6PD欠乏症におけるクラス1変異体の立体構造及びダイナミクスを明らかにし、変異による活性低下機構を解明した(Horikoshi N., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2021)。さらに、生化学的解析および構造生物学的解析により、クラス1変異体は4量体を形成できないことが明らかになり、変異導入によりクラス1変異体を強制的に4量体形成させることによって活性の向上が観察された。これらの成果をJournal of Biological Chemistry誌にて発表した。
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