研究課題/領域番号 |
20K15745
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
福谷 洋介 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50747136)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嗅覚受容体 / 細胞膜輸送 / RTP1S / BioID |
研究実績の概要 |
空気中のにおい分子は、鼻腔の中で嗅粘液に溶け込んだ後に嗅覚神経細胞の繊毛に発現している嗅覚受容体(ORs)と結合する。ORsは7回膜貫通タンパク質のGPCRであり、多くのORsは異種細胞での機能発現性が低く、ORsの細胞膜輸送機構に至るタンパク質成熟化機構は未解明である。本研究では哺乳類ORsタンパク質の成熟化機構の解明を目的に、まず、数百種のORsの細胞膜局在を促進するReceptor transporting protein 1S/2(RTP1S/2)の機能構造解析を進めている。RTP1SはZf-3CXXCというモチーフを有しており、システイン残基がRTP1Sの機能構造に重要な役割をしていると考えた。RTP1Sの持つ1つシステインをセリンにそれぞれ置換した変異体を構築し、機能活性に影響するシステイン残基を同定した。単変異では機能消失しなった変異箇所に対し、複数変異を導入するといずれもRTP1Sの機能が消失してしまうことが分かった。このことはRTP1Sの複数のシステイン残基が立体構造形成に関わっていることを意味しており、大腸菌組み替え体で発現させたRTP1Sの精製が困難であることもこの立体構造の不安定さが原因であると考えられた。 RTP1SによるORの細胞膜輸送過程に関わる新規タンパク質の同定を目的に、ビオチンリガーゼによるBioID法での探索を行うため、TurboIDならびにAirID融合ORs、RTP1Sを構築した。各BioID融合タンパク質をHEK293T細胞に発現させ、細胞内でビオチン化されたタンパク質をLCMSで検出した。その結果、ORs膜輸送因子となるタンパク質を複数獲得した。今後、得られた新規候補に対してORsの膜輸送過程での関与を追及していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RTP1Sの機能活性に重要なシステイン残基の同定を行ったことで、今後の立体構造解析に向けた変異体の構築に活かすことができる。BioID法によって、OR、RTP1Sの細胞膜輸送に関わる新規タンパク質の獲得に成功した。HEK293T細胞内在の新規タンパク質を同定できたことは、ORの新たな膜輸送経路の探求につながり、今後予定している細胞内の顕微鏡観察などの実験においても利用価値があると考えられ、今後の研究展開に向け非常に重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
RTP1SによるORsの細胞膜輸送作用をより探求するために、RTP1Sの機能構造に対する研究としては、独特なZf-3CXXCモチーフ全体に焦点を当て解析を進める予定である。類似のZF-CXXCモチーフは亜鉛結合をする。そこで、RTP1Sの複数あるCysのうちどのCysが亜鉛結合部位として機能しているか探索する。また、亜鉛欠乏条件で細胞を培養したときのRTP1Sの機能に与える影響を解析する予定である。 今年度にORの成熟化過程に関係が示唆される新規タンパク質の同定に成功した。次の展開として、各候補タンパク質のsiRNAによる発現抑制や過剰発現によるORs発現への影響を調べ、ORs機能発現に関与する候補を絞る。さらに、超解像度顕微鏡観察によるORsやRTP1Sと候補タンパク質の共局在観察と分割ルシフェラーゼを用いたタンパク質間相互作用解析を行い、ORsと新規同定タンパク質の相互作用状態を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症対策に伴う活動自粛のため、研究の実施開始が遅れたことで予定よりも当該年度で使用した試薬、消耗品の種類が少なく、想定よりも出費が少なかった。また、参加予定の学会がすべてオンライン開催となったことなどで、旅費の使用が大幅に予定を下回った。次年度において、当該年度で後に回した研究内容を進める予定のため、次年度使用額を含めた全体の使用計画については大きな変更はない。
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