嗅覚受容体は7回膜貫通タンパク質のGタンパク質共役型受容体であり、多くの嗅覚受容体は異種細胞での機能発現性が低く、その細胞膜輸送機構に至るタンパク質成熟化機構は未解明である。本研究では、哺乳類嗅覚受容体の細胞膜輸送機構の解明を目的に、タンパク質翻訳後に嗅覚受容体と細胞内で相互作用するタンパク質の解析を進めている。前年度までに、Bio-ID法を活用し、嗅覚受容体ならびに嗅覚受容体シャペロンタンパク質Receptor transporting protein(RTP)と相互作用する新規タンパク質として熱ショックタンパク質HSPA6とSTAU2がRTP1Sと嗅覚受容体を共発現させた時に特異的に検出された。今年度は、HSPA6とSTAU2が嗅覚受容体発現に与える影響について調べた。HEK293T細胞において、HSPA6とSTAU2をそれぞれ過剰発現させるとマウス嗅覚受容体の細胞膜発現量が有意に向上することを確認した。また、分割ルシフェラーゼによるNanobit法でHSPA6とSTAU2はそれぞれ嗅覚受容体、RTP1Sと細胞内で相互作用していることを確認した。HSPA6とSTAU2がともにHEK293T細胞内の細胞質に多く発現することを免疫染色で確認し、RTP1Sによる嗅覚受容体の小胞体から細胞膜への輸送過程における相互作用箇所が細胞質であることが示唆された。 本研究を通じ、RTP1Sと協調して嗅覚受容体の機能的発現を促進する新規タンパク質の同定に成功した。これらタンパク質が嗅覚受容体の細胞膜輸送を促進する分子機構の解明までは至っていない。プロキシミティラベリング法では他にも多くの新規シャペロン候補タンパク質が見つかっており、今後、それらタンパク質の機能と相互関係性を調べることで嗅覚受容体の細胞膜輸送機構をさらに明確にできると考えている。
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