研究課題/領域番号 |
20K15746
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
平田 哲也 岐阜大学, 高等研究院, 特任助教 (90780651)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GPIアンカー / 糖鎖修飾 / PGAP4 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーは真核生物に広く保存された、糖脂質によるタンパク質の翻訳後修飾である。哺乳動物細胞では約150種類ものタンパク質がGPIによる修飾を受け、それらGPIアンカー型タンパク質は様々な生理機能を発揮する。GPIは種間で共通のコア構造と、種間で異なる糖鎖からなる側鎖構造を有し、哺乳動物のGPI側鎖は、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)-ガラクトース(Gal)-シアル酸(Sia)の三糖から構成される。しかし、その生理機能は不明である。本研究では、申請者が初めて同定した、GPIにGalNAcを転移する酵素であるPGAP4をノックアウト(KO)したマウスを用いて、哺乳動物におけるGPI側鎖の生理機能を解明することを目的とした。まず、PGAP4遺伝子の組織発現分布を定量的PCRにより解析した。その結果、PGAP4遺伝子の発現は脳、腎臓、精巣などの一部の臓器でのみ見られ、特に脳で発現が高いことが明らかとなった。次に、PGAP4の生理機能を包括的に理解するために、理化学研究所の実施するマウスクリニックにて、網羅的な表現型検査を実施した。血液生化学検査の結果、PGAP4-KOマウスでは血中アルカリホスファターゼの値が野生型マウスの3倍以上であることが明らかとなった。また、血中のカルシウム濃度がKOマウスで増加することも明らかとなった。さらに、骨形成不全、体脂肪率増加などの表現型が見られており、PGAP4が生体内で重要な働きをしていることが明らかとなった。さらに、PGAP4-KOマウスの行動解析の結果、KOマウスでは活動量が低下すること、短期記憶の低下が認められることが明らかとなった。これらの成果は、GPI側鎖の生理機能を初めて示した重要な知見であり、現在、論文投稿の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、1. PGAP4の組織発現分布の解析、2. PGAP4-KOマウスの表原型解析、3. GPI側鎖構造変化によるプリオン病発症機構の解析、の三点について解析を進めるものである。このうち、本年度は2の表原型解析の大部分を終了し、1や3の項目についても進展が見られている。1については、PGAP4の脳における発現分布を免疫染色により解析を始めている。さらに、PGAP4の次に働くガラクトース転移酵素であるB3GALT4の脳における発現分布解析も、岐阜大学医学部の富田弘之先生と共同で進めている。3については、PGAP4-KOマウスを用いたプリオン感染実験を、北海道大学大学院獣医学研究院の小林篤史先生の協力のもとすでに実施しており、PGAP4-KOマウスではプリオン病の発症が早まるという結果を得ている。今後、なぜPGAP4-KOマウスではプリオン病の発症が早まるのか、そのメカニズムを明らかにしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、PGAP4やB3GALT4の脳における発現分布、発現細胞種の特定を、免疫組織染色やin situハイブリダイゼーションにより実施する。また、行動解析で見られた変化の原因を特定するために、RNA-seqや定量的プロテオミクス解析により、PGAP4-KOマウスの脳で発現変動する分子を網羅的に同定する予定である。PGAP4-KOでプリオン病の発症が早まるメカニズムを明らかにするために、PGAP4-KOマウス脳やPGAP4-KOマウス由来初代培養神経細胞におけるプリオンタンパク質の発現や局在を解析する。プリオン病は正常プリオンタンパク質が異常型へと構造を変化させることで発症する。したがって、PGAP4-KOによりGPI側鎖構造が変化することでプリオンタンパク質の構造安定性が変化する可能性がある。よって、PGAP4-KOマウスやPGAP4-KO細胞からプリオンタンパク質を精製し、プリオンタンパク質の構造安定性をCDスペクトルなどの手法により評価する。
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