研究実績の概要 |
(1)ユビキチンとATPとの弱い相互作用の原子レベル解析 細胞内に大量に存在するアデノシン三リン酸 (ATP) は、天然変性タンパク質FUSの凝集を大幅に阻害する効果があると報告された(Patel, et al. Science 2017)。凝集の阻害にはATPとタンパク質との直接的な相互作用が重要であり、この相互作用はある特定のタンパク質に限られたものでは無いことが示唆されるが、詳細な機構はわかっていなかった。本研究では溶液NMR法や等温滴定カロリメトリー法を用いて、ATPとユビキチンとの相互作用を定量的に明らかにした。ATPはユビキチンの柔軟または疎水性の高い領域に弱く相互作用することがわかった。この相互作用はタンパク質の水和状態を変化させ、自己会合や凝集を阻害することが示唆された。本研究で得られた結果をまとめ、学術論文として発表した(Nishizawa, Morimoto, et al. JACS 2021, 143, 31, 11982-11993)。 (2)環状ユビキチン鎖の作製と物性の評価 本研究では、ユビキチン鎖が関与する液液相分離を詳細に解明するため、さまざまなユビキチン鎖、特に研究があまり進んでいない非定型のユビキチン鎖を試験管内で作製し、液滴形成能を検証することを目指している。本年度では、作製が困難なK48結合型の環状ユビキチン鎖を高純度かつ大量に試料調製し(Sorada, Morimoto, et al. BBRC 2021, 562, 12, 94-99)、直鎖状のユビキチン鎖と異なる物性を示すことを見出した。
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